第9話隠れた努力
生徒会は一日の休暇を挟み、皆リフレッシュしたのか、どこか体が軽そうだった。
一人を除いて......
「唯花先輩?大丈夫ですか?すっごい顔色悪いですけど......」
「あ、うん。大丈夫......」
唯花先輩の顔は若干青く染まっていて、とても辛そうだ。
「ちょっと一回休みましょう。桜庭先輩!!唯花先輩が体調悪そうなので保健室に連れていきます!!」
俺は少し離れたところにいる桜庭先輩に向かって叫ぶ。
「分かった!できるだけ早く戻ってきて!!」
「はい!!」
そして唯花先輩の方に視線を戻す。
「唯花先輩?歩けますか?」
「うん......でもちょっと辛い......」
「おんぶくらいならしますけど......」
「ごめんね。おねがいしてもいいかな?」
「分かりました」
そして俺は唯花先輩の前で屈み、彼女の体重を感じると同時に持ち上げた。
とりあえず、いろんな感触がやばかった。
意識から切り離そうとしてもずっと頭によぎってしまう。
でも、唯花先輩を丁重に扱おうとする気持ちのほうが大きくて、走る時も揺れがより少なくなるようにしたりとかなるべく日の当たらないところを行ったりするという事を意識して、できる限り急いだ。
保健室は一階にあるので、階段を上ったりする必要もなく、緊急時の為に昇降口に近いところにあるから、直ぐに着いた。
戸を二回トントンとノックすると、中から養護教諭の声が聞こえた。
「は~い」
その言葉の後に、戸を引いた。
「失礼します。とても体調が悪そうなので連れてきました、たぶん熱中症だと思います」
「ありがとう、とりあえず、そこのソファに立花さんを寝かせてあげて」
「はい」
俺は彼女を背中から降ろす。
唯花先輩はそのままゆっくりとソファに座り、先生に診てもらう。
「すいません、俺戻りますね」
「はい、ありがとね」
先生にそう言われて小さくお辞儀で返す。
そして、戸を開き小さく「失礼しました」と呟きながら保健室を後にした。
保健室から出るとクーラーの涼しさなど無くなってしまい、熱気が風に乗って俺を襲う。
「暑いな......こりゃ熱中症になるのもうなずけるわ」
自分の手で煽いでは見るが涼しさなんて微塵もない。
昇降口を出て日向に出ると、さらにその暑さは増して、俺の肌をじりじりと焼く。
そして校庭に出ると、忙しそうに走る体育委員とそれを手伝う運動部の姿があった。
生徒会と体育委員だけで準備するとなると、さすがに数時間そこらじゃあテントの設営からライン引きまで出来るはずもない。
だからこうやって運動部の生徒に手伝ってもらっているのだ。
汗を流してせっせと働く生徒もいれば、めんどくさい事は他人に任せて自分だけ楽をしている生徒もいるが......
でも、しっかりと働いてくれている人を見ると自分も負けていられないと、自分を奮い立たせる。
そして俺は、校庭に出ていった。
◇◆◇
時間は六時を回り部活の生徒は皆帰り、残っているのは生徒会と一部の体育委員だけだ。
そして皆の前に立っているのは体育委員会の委員長と唯花先輩だ。
「明日を挟み、あさっては体育祭です!実に不甲斐ない話ですが私は熱中症になってしまい、皆さん程貢献はできませんでした。だから短めに。あさっては最高の体育祭にしましょう!!」
主に体育委員の人が近所迷惑ではないのかというほどの声量で「おー!!」と声を上げた。
そして、体育委員長がこの場を締めて解散となった。
「唯花先輩お疲れさまでした」
「いやいや、凪くんも運んでくれてありがとね」
「いえいえ。唯花先輩久しぶりに一緒に帰りましょ!」
「そうだね、じゃあ行こっか」
そして、俺と唯花先輩は駅に向かって歩き出す。
「やっぱり中学生の時のこと思い出しちゃうね」
「はい、そうですね。中学の頃も体育祭の準備の時に体調崩してませんでした?」
「確かに崩してたね~今となってはすっごい昔の事に感じるなぁ」
たった三年前の出来事。
あれからまだ三年しか経ってないのか。
あの頃の事は一つ一つが新鮮な出来事で毎日が楽しかったなぁ。
「初めて生徒会に入った時の生徒会長が唯花先輩でよかったです」
「い、いきなりそんなくさいこと言わないでよ......びっくりする......それに別に私が生徒会長じゃなかったとしても多分凪くんは変わらなかったと思うよ?」
「そうですかね?まあ、唯花先輩の後輩でよかったってことで」
「ふふ。私も凪くんが後輩でよかったよ」
そして駅に着くと三分ほどで電車がやってきた。
電車の中はかなり空いていた。
「唯花先輩、奥どうぞ」
「いやいや、別に凪くんが気を使うことないんだよ?隣に誰かがいるわけでもないし」
「となりに誰かが座ってくるかもしれないので、唯花先輩が奥で」
「もう......凪くんは強情だなぁ」
そう言って唯花先輩は奥へ座り、その隣に俺が座る。
そして、電車が緩やかにスピードを持ち始め、心地よい揺れとともに速くなっていく。
――ストン
ふいに俺の方に重みがかかってきた。
唯花先輩が俺の肩に頭を預けて静かに寝息を立てていた。
疲れてたんだろうな。
きっと、俺たちの見えないところで唯花先輩は頑張っていたんだろう。
そんな気がした。
だから、今だけはしっかり休んでもらおうと思って、俺は最寄り駅に着くまで唯花先輩を肩で寝かせた。
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