第8話放課後は楽園
俺たちは学校を出て、駅へと向かって歩いていく。
「結構、あるんだよね......こういうラブレターって」
「へぇ~すごいなぁ~俺は全然そういうの無いから」
「でも、毎回断るの大変だよ?」
「そういう悩みもあるのか......」
「まあ、今日はそんなこと気にならないほど楽しく遊ばせてくれるんでしょ?」
「そうだなっ!じゃあまず隣の駅まで行こう!」
高校からの最寄り駅はそこまで栄えていないので、陽北高生はいつも隣の駅に行って遊ぶのだ。
ということで俺と由都さんは電車に乗り込み、隣の駅へ向かう。
駅に着くと、見た感じ高校生が多い。
「まず、どこにいこっか?」
「じゃあ、小腹空いたしなんか食べよ!!」
「クレープでも食べよっか?」
「うん!」
そして俺はバナナチョコレートのクレープを買い、由都さんはストロベリーのクレープを買った。
「甘くておいしい!」
「そうだね。めっちゃおいしいな」
すると、由都さんは俺のクレープをチラッチラッと見ている。
食べたいんだろうな......
幸い俺のクレープにはまだ俺が口をつけていない部分があったので大丈夫だろう。
「食べる?」
「うんっ!」
そうして由都さんは迷いもなく俺のクレープを齧った。
俺がすでに食べていた部分を......
「ん~ん!こっちもおいしい!」
由都さんはまるで気にした様子もなく、美味しいものを食べているときの表情をしている。
「凪くんも食べる?」
そう言って、由都さんは俺の目の前にクレープを差し出してくる。
由都さんは有無を言わさないような表情をしている。
それに負けて俺も彼女と間接キスをした。
「おいしい......」
「よかった!」
全く気に留めないなんて......
魔性の女なのか!?
恥ずかしい思いをしているのは俺だけなのか......
そう考えると自分が遅れているのかなと錯覚させられてしまう。
そんな思いを一人抱えながら、俺はクレープを完食した。
「次はどこに行く!?」
「うーん、長く時間取っちゃうけどカラオケでも行ってみる?」
あまり由都さんにゲーセンの空気は合わないなと思いカラオケを勧める。
「うん!行こ!」
今の彼女はとても無邪気そうで、これ以上ない笑顔を咲かせていた。
カラオケに行くと、案内されたのは、三人用の狭い部屋だった。
「狭いね......」
「狭くても大丈夫だって、ほらマイク持って!たくさん歌お!」
俺はマイクを持ってとにかく二人で歌い続けた。
最近のメジャーな曲やアニソンなど様々な曲を歌いつくしていると二時間という時間はあっという間に過ぎて行ってしまった。
「のどが死にそう......」
「そうだね飛ばしすぎちゃったね......」
「でも――」
「「楽しかった!!」」
そう言って二人で顔を見合わせて笑った。
「もう七時だしご飯食べてから帰ろっか?」
「じゃあ、ファミレスでいっか!!」
「そうだな!」
そして、近くにあったファミレスに入って、欲望のままに食べたいものを頼んだ。
「どう?楽しかった?」
「うん!とっても楽しかった!それでさ、凪、ちょっと相談なんだけど......」
「ん?なに由都?」
俺たちはいつの間にか「くん」や「さん」をつけなくなっていた。
それもばかみたいにはっちゃけたおかげだろうか。ともに長い時間を過ごしたことで心の距離が縮まっているような気がした。
「明日からお昼ごはん一緒に食べない?」
「お昼ごはん?こっちからお願いしたいくらいだよ」
「じゃあ決まりね!明日からだよ?忘れないでね」
「もちろん、忘れないよ」
お昼ごはんの約束を交わしたタイミングで料理が届いた。
俺たちは学校の先生の愚痴だったり、お互いの好きなことについて話し合ったりしながら、ゆっくりとご飯を食べた。
「由都ってどっち方面なの?」
「さっき来た方向と逆だよ」
「そっか、じゃあ俺と同じ方面だね、送っていくよ?」
「悪いよ......明日も生徒会あって大変だろうし」
「送らずに由都が襲われでもしたら嫌だから送っていく」
「じゃあおねがいしようかな」
駅の改札口でそんな言葉を交わしてから俺たちは改札を通る。
「この時間帯だとやっぱり混んでそうだね」
由都の言う通り駅のホームは大量の人でごった返していて、電車の中もぎゅうぎゅう詰めになることは想像をするのは容易い。
そしてまあまあ人の入った電車がやって来る。
扉が開くと大量の人が出てくるが、それ以上に多くの人が電車に詰め込まれていく。
俺たちもその波に乗って電車に乗り込んだ。
電車の中は五月下旬とは思えないほど、暑く湿気が高くてむしむしとしている。
(由都大丈夫?)
(大丈夫だよ)
小声で由都に確認を取る。
由都はこの状況であるにもかかわらず笑顔で対応してくれて、この状況による少しのイラつきも取れていくような気がした。
電車が動き出すと揺れが大きくなってきてバランスが取りずらくなって来る。
俺は吊革につかんでいて、由都はというと俺の制服の袖を掴んでいた。
これはもう萌える。そしてその状況で申し訳なさげな、表情でうつむいているのがなんとも可愛かった。
二駅ほど過ぎると由都は精一杯背伸びをしながら何かを伝えようとしてくる。
俺は由都の方に耳を向けて言葉を待った。
(次で降りるよ)
(分かった)
そして停車駅にもう着くというタイミングで由都が動き始めた。
だが、電車の慣性力によって由都が俺の胸に倒れてきた。
「わわっ、あ、ありがと......」
「しっかり待とうね?」
「う、うん......」
え?女の子の身体ってこんなに柔らかかったの?
Yシャツ越しに感じた由都の二の腕の感触ははもうマシュマロなのかというレベルで柔らかかった。
何とか平常心を保ちながら、電車を出る。
電車の中と比べて、随分と澄んだ空気が肺の中を通っていくようで、その空気をたっぷりと吸い込みながら深呼吸をした。
「それじゃあ行こっか」
「うんっ」
由都の隣を歩きながら暗くなった夜道を歩く。
「やっぱり一人で帰らさせなくてよかった」
「どういうこと?」
「こんな暗い道を由都一人で帰らす事できないからだよ」
「急にキュンとするようなこと喋るから凪はずるい」
「えぇ......普通の事だって」
「その普通をしっかりとできてるのが良いんだって」
「そっか、ありがと」
三十分ほど歩いて、やっと由都の家が見えてきた。
「ここまででいいよ。ありがと」
「おう、また明日。頑張ろうね」
「うん。ねえねえ凪」
「ん?」
「私、わざと遠回りして帰ってたんだよ?凪といる時間が楽しいから」
全く気が付かなかった。
というかそっちよりも一緒にいる時間が楽しいと言ってくれたことが嬉しかった。
「そっか。俺も長い時間由都と居れて楽しかったよ」
「も、もう!なんで凪はこんなに鈍いの!?ばいばい!お昼ご飯忘れないでね!」
「わかったよ。また明日」
俺はあえて由都と歩いてきた道のりを辿って駅まで戻っていった。
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