閑話

神府内 某所にて


「第11界の被害状況は?」

「完全分離約11,200件、分離寸前が約4,000件、なおも急激に増加中です!」

「まだ中規模自然災害レベルか……。

第6界の分離進行度は?」

「完全分離が約27,000件、寸前が約9,500件です」

「遅い……当初の予定から60パーセントも遅れているではないか!

その原因は?」

「ヘイズ国勇者、聖女を筆頭とした勢力の抵抗が激しく、かなり苦戦を強いられているようです。

すでに第2世代型1機、第3世代型3機が活動不能に……」

「無理もない。

そいつらは奴との行動を通して準神生物の仕留め方を知っているからのう……。

既出の全勢力を連中の行動圏に集めて徹底的に叩け」

「しかし界長、現地に残っているのは足の遅い第2世代型がほとんどです。

叩かれる前に集めきるのは不可能かと……」

「各地で動かしておいた方が効率的、か。

わかった。では第2、第3世代型の生産ラインを動かし、7日以内に各10機ずつを目標に連中の行動圏に配備せよ。

予算ならどうにか工面してやる」

「それが……その、整備不十分により現在生産ラインの設備が劣化しておりまして……。

完全復旧には30日ほど……」

「なんじゃと!?

サポートはまだ切っておらんが?」

「その……大変申し上げにくいのですが、現在投入分でも第6界壊滅には十分事足りるだろうとの判断から、設備の点検等に怠慢が生じ……」

「馬鹿者!

一体『誰が』そんな判断を下した?

力の逐次的投入ほど愚かなことは無いと……備えは常に怠るなと、あれほど言い置いたじゃろうて!」

「もっ、申し訳ございません!

今すぐ原因を調査し、責任者を……」

「ええい、要らん要らん!

言い訳も謝罪も聞きとうない!

そんな暇があるなら手を動かせ!

謝意は結果で見せよ!」

「はっ、はい!」

「……ぐぬぅ」

どうしてこうも使えん奴しかおらんのじゃ?

ここにいる者は皆、あの最終試験を突破しておるはずじゃというのに……。

カンニングでもしおったというのか?

……こうなると、頭の固い中堅どもをデコイとして切り捨てたのは完全に儂の失策じゃったな。

多少の質の低下は覚悟しておったが、ここまで使えんとはのう……。

まったくもって弛んどる。

どうしてこうも熱意が無い?

儂らの辿った歴史とその悲願とを、まさか忘れたとは言わせんぞ。

進化の奇跡とも言うべき高尚な魂を獲得しながらも、その肉体の弱さ故に劣等種として生態系から排除された無念を。

世界への適合に失敗し、自ら作った狭い空間で寄り集まってこそこそと生きる屈辱を。

復帰への布石を打とうにも、結局は儂らを辱めた生物どもの身体を借り、無理矢理進化させて模造品を作ることしかできぬという無力感を。

……いつか元の世界で誇り高く生きたい。

そのためになら全てを捧げる。

こんな老いぼれにも残る熱い想いを、最近の若い連中は……。

いかんいかん。

下らない不満を溜めておっても目的には近づかんというのに……悪い癖じゃ。

じゃが、皆がそんな想いを持っておればこうはならんかった。

技術班にもしつこく言っておいたはずじゃ。

多少納期を過ぎ、予算をオーバーしても構わんから、強制停止装置だけは必ずや完璧なものにせよと。

管理できぬものを生み出すな、念には念を入れろと……。

期日、予算、地位。

そんな下らん形式ばかりに囚われていては、永遠に進展など見込めん。

最近は下らん欲に目が眩み、本来の目的を忘れた者が多すぎる。


……そんな中で、あの小娘は珍しく使えると思っとったんじゃがな……。

よりにもよって被験体に惚れ込み、命まで捧げよるとはのう……。

確かに、慣れとらんくせに下手に心情を慮って、最初から計画を伝えんかった儂も悪い。

転生者を自由に選んで来いと言われれば、自分の好みの人間を探してくるのは当然のことじゃ。

しかし……いくら惚れたからとはいえ、長きに渡る儂らの切なる願いに反し、さらには己の命を捨ててまで愛し抜くものか?

相手はただの被験体か、良く言っても儂らの劣化コピー……道具に過ぎぬ存在じゃというのに。

年頃の女はようわからん。

方向性こそ違えど、それほどまでに強い想いを最期まで貫いたという点では、ある種の敬意を持つべきなのじゃろうが……。

……何であれ、結果は結果じゃ。

生み出してしまったものが大きすぎる。

所詮は小娘……後先など考えんかったということか。

まったく、尻拭いをする儂の身にもなってもらいたいものじゃ。


…………あの小僧……。

同情すべき奴じゃな。

背負わされた運命はあまりにも過酷……。

恨みも憎しみも全て受けよう。

しかしながら、その怒りを直接ぶつける力を持ち、さらに噛み付いてきたともなれば話は別じゃ。

儂には儂の信念というものがある。

いくら同情しようとも、邪魔をするなら手段は選ばん。

奴の魂はまだ若く感情的で、泡のように儚く脆い。

簡単な偽装工作に引っかかったのがその何よりの証拠じゃ。

それでも圧倒的な力は、それだけで十分な脅威となる。

心してかからねばなるまい。

「……ょう………クリーブス界長」

「おお、すまんすまん。

少し考え事をな……で、用件は?」

「お受けしていた例の第4半世代型機の件、形になりました。

配備許可を頂きたいのですが、仕上がりを確認なさいますか?」

「いや、結構。お前に任せる」

「御意。すぐに手配致します」

「ああ、よろしく頼む」

……こいつとは長い付き合いじゃな。

同じ信念を持ちながら、儂には無い落ち着きを兼ね備えておる。

こんな奴がもっと多ければのう……。

いかんな。

これではまたあいつに笑われてしまう。

儂の考えるべきは目の前の事象。

さて、果たしてこれがどう出るか……。

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