閑話
リチネード国立第2病院
西病棟 317号での会話
「怪我の具合はどう?」
「すっかり良くなったよ。
明日には動けると思う」
「そう、良かった」
「……なんだ?妙にニコニコして……。
何かいいことでもあったのかい?」
「うふふ。
今日はカジハラくんのとこに行ってね……」
「またいじめたのか」
「いじめたなんて人聞きの悪い……。
そんなことするわけないでしょ?」
「どの口が言うか。
いい加減、その癖直したほうがいいぜ」
「今日はホントにベルちゃんに頼まれて手伝ってあげてただけよ。
……まあ、ほんのちょっと遊んじゃったかもしれないけど」
「それ見たことか。
相手が不自由してるのをいいことに……。
あれは俺たちの責任でもあるんだぞ?」
「そりゃわかってるわよ。
あたしにだって申し訳ないっていう気持ちはあるわ……。
でも、それとあのコがかわいいのとはまた話が別よ。
ほんの少し胸が当たっただけで顔真っ赤にして、耳元で囁いたらぞくぞくって震えるの。
見ててホント癖になっちゃうわ。
歩く練習してるときもね……」
「……ん?ちょっと待て、歩くって……。
カジ君、もう歩いてるのか?」
「うん。まだちょっとぎこちないけど、夕方には1人で歩けるようになってた」
「大丈夫なのか?
普通はまだ立つこともできないはず……」
「そうなのよね……。
あたしもかなり無理してるんじゃないかって思ったわ。
普通なら動けないほど痛いはずなのに、休もうともせず、表情一つ変えずにリハビリに打ち込んで……。
なんでも、ベルちゃんから聞いた話だと、まだあたしたちと一緒に旅を続けるつもりらしいの」
「本当に?
確か、出発予定まであと4日じゃ……」
「多分、あのコは意地でも間に合わせるわ。
きっと止めても無駄よ……。
あなたとそっくりな目をしてたから」
「…………」
「……カジハラくんって、あなたにすごく似てる気がするのよね。
自分のことなんか全然頭になくて、いつも誰か他の人のことを考えてて、そのためだけに生きてるって感じ。
あたしがかわいがるのも、あのコにあなたの面影を見ているからなのかもね」
「恥ずかしくなるようなこと言うなよ。
俺はカジ君みたいな強い人間じゃない」
「そんなこと……まあいいわ。
ただ、あたしはあなたを選んだ。
それだけは忘れないでね」
「フィス……」
「……なんか変な感じになっちゃったわね。
ごめんなさい」
「いや、いいんだ……。
それより、本当に大丈夫なのかな?カジ君」
「……?」
「さっきカジ君が俺に似てるって聞いてふと思ったんだ。
俺にはフィスがいたけど、彼には誰がいるんだろうって。
もしかしたら誰もいないんじゃないかって」
「どういうこと?」
「……俺が勇者になりたてのころ、2人になるとしょっちゅう君に泣きついてたの、覚えてる?」
「ええもちろん。
何も言わずにぎゅーってしたら小さい声でそっと泣き出すの、普段見ない感じですごくかわいくって」
「俺がここまでやってこれたのは、ほとんどあれのおかげなんだ。
……たくさんの人からの期待とそれに伴う責任は、立派な人間でもない俺にとって、それもガキのころの俺にとって、到底背負いきれるものじゃなかった。
正直、荷が重すぎたんだな。
でも引き受けてしまった以上、絶対に逃げるわけにはいかない。
いつしか俺は何かに怯えるようになって、母上の前でさえ涙を見せなくなった」
「確かに……。
そういえば、ソルがあたし以外の誰かの前で泣いてるの、見たことないかも」
「だから誰か、泣きつける相手が……自分が勇者であることも忘れて、弱さとかを全部晒せる相手が必要だったんだと思う」
「それがあたしだったのね」
「ああ。他人の前で強がった分、思いっきり君に自分の弱さをぶつけてバランスをとってたんだ。
もしカジ君が俺と似ているなら、彼にも弱さとか、不安とか、そういうものがあって、それを1人で抱え込んでるはずなんだ。
だからそれを見せられる人……思いっきり頼れる人が、彼にはいるのかなって」
「うーん……それはわかんないけど、あのコならきっとなんとかするんじゃないかしら?」
「えらく希望的な観測だな」
「そんなことないわよ。
カジハラくんにだって、あなたにとってのあたしみたいな人は絶対現れるわ」
「……ベルちゃんのことか?」
「さあね。それはあのコたち次第だからあたしにもわかんない。
でも、カジハラくんの気持ちは尊重しなきゃいけないし、それにいくら説得したってあのコの意志が変わるはずもないことは、あなたが一番よく知ってるんじゃないかしら?」
「……否定はできないな」
「だったらあたしたちには、あのコを信じて、少しでも力を貸してあげることしかできないんじゃない?
考えてたって仕方ないわよ」
「……ああ。それもそうだな」
「ふぁ〜あ……難しい話してたらなんだか眠くなっちゃった。
もう遅いし寝るわね」
「うん、おやすみ」
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