閑話

ミガナ国東

旅籠「美酒」 207号室での会話


「すみません、お手数おかけして」

「いいってことよ。

今日はどの道出かけるつもりだったし、いい息抜きにもなったから」

「勇者様からは何か?」

「ああ、ソルなら一日中クエストに出てたから心配しないで。

あいつったら、常に何か人のために動いてないと気が済まないみたいで」

「だといいんですが……。

……で、どうでしたか?カジハラさんの様子は」

「……うーんとね、あたしの見た限りでは、おそらく悪いコではない、って感じかな」

「そうですか……」

「よからぬ裏の顔を持ってるっていう感じはしなかった。ただ……」

「ただ?」

「まだ確信は無いんだけど、彼、何かあたし達に隠し事をしてるように見えたの。

ふとした瞬間に、なんだか後ろめたそうっていうか、悩ましげな暗い目をしてた。

普段は考えないようにしてても、もしかしたら結構思い詰めてるのかもね」

「その内容は?具体的ではなくとも、何か手がかりになりそうなこととか……」

「それは流石にわからないわよ。

ずっと一緒にいたあなたにもわからないんだから、それを私が知るのはちょっと無理ね」

「……そう、ですよね……」

「……ねえ、いろいろと気になっちゃう気持ちはわかるんだけどさ、そんなに詮索することもないんじゃないかな?

隠したくなる事情が彼にもあるんだろうし、ベルちゃんにだって秘密にしてることぐらいあるでしょ?」

「それもそうですが……」

「……まあ、あたしからは、カジハラくんに秘密があるにせよ無いにせよ、悪い人ではないだろうから安心してもいいんじゃない?とだけ伝えておくとするわ」

「……はい、ありがとうございます」

「お役に立てたなら何よりよ」

「……その、何か今日のお礼をさせてくれませんか?」

「そんな、いいのよお礼なんて」

「それでは私の気が済みませんよ。

私にできることなら何でもしますので」

「ホントに気にしなくていいのに……。

うーんと……それじゃあ、カジハラくんと初めてキスしたときのことについて、私に教えてくれる?」

「…………!?きっ、キス……ですか?」

「そうそう。

いつ、どこで、どんな感じでしたのか。

あのコをからかうのにいい材料になりそうだから、ね?」

「そ、そんな、私……したこと……ない、ですけど……」

「あら、ホントに?

確かあなたたちって、おんなじ家でずっと一緒に住んでたんでしょ?」

「ずっと養って頂いていた、という方が正しいですが」

「あのコのこと好きじゃないの?」

「嫌いだ、と言えば嘘になりますが……。

正直よくわかりません」

「あー、まだその段階なのね……。

え、ちなみにカジハラくんに嫌われてるとか思ってるわけでもないのよね?」

「まあ、これだけ良くして頂いている以上、悪く思われてはいないと思いたいです」

「そう……まあ、そこはベルちゃん次第ね。

自分なりに考えるといいわ。

……ただし、決めるのは早めにね」

「……と、いいますと?」

「あのコ、全然女の子慣れしてないのよ。

あたしがちょっとからかっただけで、かわいいぐらいどぎまぎしちゃってさ」

「それに何か問題が?」

「そりゃ大有りよ。

最近あんまり見なくなってきてるけど、ついこの間までサキュバスなんかもうじゃうじゃいたわけだし……。

カジハラくんみたいに慣れてないコほど、良くも悪くも堕とされやすいからね。

そういう輩には気をつけた方がいいわ」

「そんな……私だって男の人に慣れているわけではないのに……。

それに私、フィスさんみたいに、その……胸も、全然大きくないですし」

「胸の大きさだけが全てじゃないわ。

むしろ、ベルちゃんみたいにちっちゃくてかわいい胸が好きっていう男も多いものよ。

もっと自分に自信を持ちなさいな。

ベルちゃんすごくかわいいから、カジハラくんとかなら、軽く誘ってあげるだけで犬みたいに襲ってくるんじゃないかしら?

ハアハア言いながら、ぷるぷる震える手で服を脱がせてきてさ……」

「やっ、やめてください!

そんな……はっ、はしたない……」

「うふふ、ごめんなさいね。

真っ赤になって恥ずかしがるの、カジハラくんみたいでかわいいなって、ついついやりすぎちゃった」

「もう、フィスさんったら……。

私、もう寝ますからっ!」

「はいはい、おやすみなさい」

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