第54話 お説教
「兄貴、ちょっと運指で相談があるんだけど」
珍しく凛が僕の部屋を訪ねてきた。しかも運指の相談とか……小学校以来じゃないだろうか。
「凛が、運指の相談って珍しいね……どこか詰まったの?」
「詰まったというか、譜面通りだと、どうもしっくりこないんだよ……兄貴一回この小節から5小節ぐらい弾いてみてくれよ」
「別にいいけど……」
凛のリクエスト通り5小節目まで弾いた。4小節目まではなんてことないフレーズだったけど、5小節目を弾くと僕も違和感を感じた。
「うん、凛の言う通りだね……この小節に入る前の運指を変えるとすんなり行くと思うよ、こんな感じで」
「えっ、そっちか」
デモ演奏を見せると凛は意外そうな反応を見せた。
でも、凛ならこれぐらい直ぐに気付きそうなものなんだけど、どうしたんだろう。
「ありがとう、兄貴」
「どういたしまして」
「なあ、ギターとは関係ないんだけどな」
「うん」
「そこの買い置かれたそれ……バレンタインのお返しか?」
「あ……」
凛にも明日渡そうと思っていたのにバレバレになってしまった。
かと言って……勘が鋭い凛に取り繕うのは今更だよね。
「う、うん……明日皆んなに配ろうと思ってたんだけどね」
「そうか……」
「凛には今渡そうか?」
「明日でいい……っていうかさ、これ……まさかマカロンじゃないよな?」
「そうだけど……」
凛は顔を手で押さえ「はぁ〜」っと大きなため息をついた。
「えっ、なんで?」
「帰ってきた時、その紙袋見て、そうじゃないかな〜ってなんとなく思ったてけど……お前本当にバカだなっ!」
え……何でバカ?
「凛……それってどう言う意味だよ……バカだけじゃ分からないよ」
「『マカロン 意味』で検索してみろバカ兄貴っっ!」
凛のやつ……今日はやけに辛辣だ。
だけど言われるままに検索してみると。
『マカロンの意味は、「あなたは特別な人」』と出てきた。
あっ……。
「ようやく分かったか! この無自覚野郎!」
……無自覚野郎。
「ただでさえ兄貴は日頃から無自覚に、衣織さんのライバル増やしてんだぞっ! そんな決定的なことしてどうすんだよ!」
「衣織のライバルってなんだよ?」
「だから無自覚野郎なんだよっ!」
なんだか分からないけど、このままマカロンを配るのは、よくないって事はわかった。
「おい、兄貴……これ配るならちゃんとフォローして配れよ」
「……う……うん」
まさかマカロンにそんな意味があるとは思わなかった……だから人気ナンバーワンだったのか。
「まあ、前日に気付いてよかったよ。こんなの誰かに渡したら大変なことになるぞ」
……あっ……もう渡しちゃった。
「…………」
「おい……なんで黙ってんだよ」
「……いや……」
「まさか……もう渡したのか」
「……う、うん」
「誰にだ!」
「佐倉さんと、祐希に」
「例のソメイヨシノか……」
「……うん」
「佐倉さんは大丈夫と思うけど……ソメイヨシノの方は知らないぞ」
「きっと大丈夫だよ! 祐希は僕と衣織が付き合ってるのも知ってるし、ただの仕事仲間だって」
ジト目で僕を睨みつける凛。
「そうだといいけどな……」
それだけ言うと、譜面も置いて、凛は部屋から出て行った。
祐希さん……確かに喜んでくれたはいたけど……それはマカロンが好きだからだよね?
まさか、彼女がいる男を好きになるなんてないよね?
……改めて『そう言うつもりじゃないから』っていうのも自意識過剰だし。
——翌日、他の皆んなにマカロンを渡す時は、皆んな一緒のを買ったって話をしてから渡した。
祐希にはマカロンの真意を伝えないままだった。
でも、このことが……自分の無自覚を思い知るきっかけになってしまうとは、この時の僕は気付いていなかった。
————————
【あとがき】
お久しぶりです!
次回はいよいよ『織りなす音』のライブです!
いずれ『織りなす音』のライバルになる『継ぐ音』というバンドのギターボーカルとそのヒロインの物語を現在連載です。
こちらも読んでいただけると嬉しいです。
『クラス1地味な浅井くんに彼氏役をお願いしたけど……マジ惚れしたから付き合ってとか今更言えない』
https://kakuyomu.jp/works/16816410413951155418
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