第52話 男2人でお買い物
アヤトとのギタークリニックで僕のSNSアカウントのフォロワーが、どかっと増えた。さすがアヤト……その影響力は計り知れない。
でも織りなす音アカウントは微増って感じだった。
まあ、織りなす音とは無関係なイベントだったし、それは仕方ない。少しでもファンが増えて、ありがたいってものだ。
——そして、SNSのチェックを終え、スマホを置こうとしたタイミングでアヤトからメッセージが入った。
『鳴って、バレンタインいくつもらった?』
バレンタイン……。
衣織、詩織さん、時枝、穂奈美、結衣さん、美咲さん、智子さん、鳥坂さん、佐倉さん、祐希さん、五十嵐さん……で、凛。
『12個だよ、アヤトは?』と返すと。
『もう、お前とは友達やめる。短い付き合いだったな』と返ってきた。
いやいやいやいや、大半音楽関係者だし、むしろそれ以外って、クラスメイトの五十嵐さんぐらいだし。
でも続けて『2個』と返ってきた。
そして、
『鳴……お返し買いに行きたいんだけど、一緒にいかん?』
お返しの買い物に誘われた。
お返し……お返し……そうだ!
お返し、しなきゃ!
ホワイトデーもう明日じゃん!
『行く、是非お願いします』
そんなわけでアヤトと男2人、お出かけすることになった。
でいうか、この間のギタークリニックのギャラが入っててよかった。
***
——待ち合わせ場所に着くと既にアヤトは待っていた。
「早いな、鳴」
「アヤトこそ早いよね」
一応僕は5分前についたんだけど、アヤトはもっと早かった。
「おい鳴……今日はプライベートだから智也だ……格好も全然違うだろ」
そう言えばそうだった。アヤトは彼の芸名で彼は
「僕……こんなふうにホワイトデーの買い物きたのってはじめてだよ」
「え? そうなの? モテモテだから慣れてると思ってた」
智也は僕のどこを見てモテモテっていっているのだろう。
「バレンタインは毎年1個だったよ……今年は部活とか事務所関係の人からも貰ったから」
「ああ、なるほど……義理チョコか……」
「……うん」
納得顔の智也だった。
「毎年の1個は、本命だった?」
「……うん」
「うおーっ! まじか! いいな!」
「もう、別れちゃったけどね……」
気まずそうな顔になる智也。
「なんか悪いな……」
「全然! もう吹っ切れたし」
「そっかそっか」
少しの間、沈黙が続いた。
気使わせちゃったかな?
「鳴……本命って何、返してた?」
愛夏には返していたっていうより……。
「幼馴染だったし、好みも知ってたから毎年、同じ店でスイーツを御馳走してたよ」
「おう……なんかそれいいな」
そういえば……愛夏と別れてはじめてのホワイトデーだ。
確かホワイトデーの翌日に振られたから……愛夏と別れてもう1年か。
「今年は本命、どうなんだ?」
「い……一応」
「おう……やっぱ、お前モテモテだな」
本命いるイコールモテモテの図式?
「智也は?」
「俺も本命だ! あと1個は妹の分」
「おー! そうなんだ」
「ああ、まだ付き合ってないけどな」
「もしかして、お返しで告白?」
「そ、そ、そ、そんなわけないだろ! 明日はあくまでもお礼だ!」
照れまくる智也。
本命から貰ったのなら明日告白すればいいのに……って、僕も告白されてすぐに返事できないほどのチキンだった……智也のことは言えないな。
まあいい、とりあえず、智也に付いていこう。
「「で、どこ行く?」」
「「あ」」
そ……そっか智也もノープランだったのか。
誘ってくるぐらいだから何かしら考えているものだと思っていた。
「とりあえず、デパートのホワイトデーコーナーでも行こっか」
「あ……ああ、そうしよう! さすがモテモテ、頼り甲斐があるな!」
……だからモテモテじゃないって。
——デパートのホワイトデーコーナーはめっちゃ賑わっていた。
所狭しとホワイトデーグッズが山積みになっていた。
「な……なあ、こんなにあると……悩まね?」
「そうだね……」
智也と2人、売り場を練り歩き、僕はやっと打開策を見つけた。
「智也……これ」
「お……おお!」
僕が指さしたのは売れ筋ランキングだ。
僕が手に取ったのは、マカロン詰め合わせ。色とりどりで見た目もいい。
「僕これにするよ!」
「早っ!」
「いや……結局悩んでもよくわからないし」
「まあ、確かにな」
「それに売れ筋ランキング1位なら万人向けって可能性高いでしょ」
「なるほど……」
智也はランキングコーナーでしばらく悩んでいた。
もう20分ぐらいは、ああだこうだと悩んでいる。
そして……。
「……俺も鳴と同じのにする」
智也もランキング1位には抗えなかった。
——「39360円になります」
「うお……なかなかの破壊力だな」
「あはは……」
ひとつ3280円税込。
ランキング1位だけあって価格もしっかりしていた。
「モテ男はモテ男で大変だな……」
智也の中で僕は終始モテキャラだった。
たくさんチョコレートをもらって浮かれていたけど、その代償は大きかった。
————————
【あとがき】
辛いね! モテ男! お返しはしっかりと!
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