第46話 ayato

 最近、凄く気になるギタリストがいる。


 ayatoあやと、彗星のように現れた、新鋭の若手ギタリストだ。


 ギター1本で奏でる彼の幻想的なメロディーがSNSで話題になり、今では次世代ギターヒーローなんて呼ばれている。


 羨ましい話だ。


 彼は元々ピアニストで、ピアノの世界観とギターの持つ独特の音色を越妙なバランスで融合させたのだ。


 残念ながら、今の僕では逆立ちしたって、彼のようなフレーズを生み出すことはできない。


 でもいつか、彼の持つ独特の世界観を、今後の自分のギターに取り入れたいと思っている。

 

 そんなわけで、今も僕は、事務所に向かう道中、彼の曲を聴いている。


 聴くことが学びの始まりだからだ。


 ちなみに今日は仕事の打ち合わせだ。


 学さんからはギタークリニックって聞いてるけど……僕だけでは絶対集客できないし、誰かのサポートなのだと思う。


 ——そして事務所に到着し、待ち合わせのAスタジオに入ると、学さんの他にもうひとり、僕と同年代の青年がいた。


「おはようございます」


「おはよう鳴くん」「おはようございます」


 見たところギタリストのようだけど、誰だろう……?


「紹介するよ鳴くん、彼はアヤトくん、今をときめく若手のギタリストだよ。知ってるかな?」


 ……い!


 アヤトってあのアヤト?


「も……もちろん知ってます! 今もアヤトさんの曲を聴いてましたよ!」


「それは都合がいいね! 君と同じ高校生だよ」


 若っ! 高校生でプロなんてすごい!


「まじっすか! でも、なんでアヤトさんが?」


「うちの事務所で、彼のマネージメントを任されることになったんだよ」


「おお! 素晴らしい、アヤトさん音無鳴です。よろしくお願いします」


 僕はアヤトさんに握手を求めたが……。


「アヤトです。よろしくお願いします」


 アヤトさんは握手を返してくれなかった。ギタリストは手が商売道具だから嫌なのかな?


「窪田さん、今度のクリニックのパートナーって彼ですか?」


「そうだよ」


「そうですか……(高校生で僕のパートナーが務まるのか? 本当に大丈夫なのか? かなり頼りなさそうだけど)」


 なんか、あからさま不安そうだ……僕ってそんなに頼りなく見えるのかな。


「鳴くんは普段頼りなく見えるけど、ギターを持つと人が変わるから、安心してくれていいよ。そして付け加えるなら、彼は私の知る限り世界有数のギタリストだよ」


 やっぱ頼りなく見えるんだ……でも、学さん……なんたる高評価! 恐縮です。


「世界有数って……それは流石に言い過ぎなんじゃないですか?」


 僕も同意だ。


「僕たちはミュージシャンだし、口でいうより、合わせてみたら分かるんじゃない?」


「そうですね……(確かに音は嘘をつかないからな)」


「というわけで、鳴くん、セッションだよ!」


「え、あ、はい!」


 なんか……僕もアヤトさんも、学さんのペースにはめられているような気がする。


 ……それにしても、窪田学にアヤト。


 こんなビッグネームを相手にセッションできるなんて!


 僕はワクワクで武者震いが止まらなかった。


「……(なんだ、あいつ……ガチガチなんじゃないのか? 本当に大丈夫か)」


 武者震いをする僕の様子を見て、アヤトさんが不安を感じているなんて、この時の僕に知る由もなかった。



「せっかくだからアヤトくんの曲で合わせようか」


「本当ですか!」


 これは嬉しい……あの世界観に僕も参加できるなんて! 生でアヤトさんのプレイに触れることができるなんて!


「自分は構いませんが……譜面用意してませんよ?」


「大丈夫大丈夫! いいタイミングではじめちゃってよ」


「はい……(窪田さんほどのピアニストなら大丈夫だけど……本当に彼は大丈夫なのか? 一音も出さずに力量を判断するなんて僕には出来ないぞ)」


 僕と学さんはセッティングを済ませると、アヤトさんに注目した。


 アヤトさんの曲で合わせると言ってもどの曲で合わせるかは聞いていない。


 呼吸を読み、タイム感をリンクさせないと、アヤトさんをガッカリさせる演奏をしてしまう。


 集中だ……集中しろ。




 ——そして程なくするとアヤトさんの演奏が始まった。


 とても静かな立ち上がりだ。


 だけど、のっけからこの独特の空気……本当にこれがギターなのかと思ってしまうほどだ。


 とりあえずキーは……G ……いやEmだな。


 よし、お邪魔します!


 僕たち3人のショーが始まった。



 ————————


 【あとがき】


 新たな鳴のライバル!


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