第34話 開かれた扉
通知は一時間程で止まった。
一般的にバズと言われるほど、再生数は伸びなかったけど、幸先のいいスタートが切れたことだけは確かだ。
ちなみ佐倉さんにお礼のメッセージを入れると……。
『そんなつもりで、やったんじゃねーよ! 今度お仕置き決定ね!』
と返信がきた。お礼を言って、怒られてしまった。
お仕置きの内容が気にならないでもないが、それはいいだろう。
——翌朝、いよいよ新学期、僕たち『織りなす音』の話題は佐倉さんの拡散で持ちきりだった。
佐倉さんが拡散した後の、再生数の伸び、佐倉さんが有名人ってこともあるが、根本的なところでいうと『数』なのだ。
佐倉さんのキャラクターに数が合わさってこその結果だ。
「そんなわけだから、みんなにもSNS頑張って欲しいんだ」
「了解っす! いやー師匠は色々考えてるんっすね」
「まあ、僕が言い出しっぺだしね」
偉そうな事を言いながらも、最初は僕も時枝と同じようにライブに次ぐライブで、のし上がって行く方法しか頭になかった。
僕のお小遣いが潤沢にあったら、この選択をしていなかったかも知れない。
「鳴くん、今度どうやったらいいか教えてね」
「僕のわかる範囲であれば、なんでも!」
つか、詩織さんだけじゃなく、僕が今まで得た情報を、どこかのタイミングで皆んなに共有したいな。
「今度、僕が今までSNSで試した事、皆んなに共有したいんだけど、いいかな?」
「むしろ今日やるべき」
あ……普通に考えてそうだよね。
「私も穂奈美の意見に賛成かな」
ですよね。
「じゃ、どこか音を鳴らせる場所を探さないとだね。流石に部室は迷惑だろうから」
「うちに来る? うち近いし」
穂奈美ん家……近所だったのか。
そんなわけで急遽、今日は部活を休んで、穂奈美ん家でSNS講座を開催することになった。
——「ちっす、鳴」
「おはよう、ユッキー」
「見たぞ鳴、バンドのミュージック・ビデオ、めっちゃよかったよ! なんか感動したわ」
「あれ? ユッキーも見てくれたんだ」
「いやいやいや、見たも何も、もう学園中の噂だぜ?」
「え……そうなの?」
「あーお前、学園SNS見てないんだったな……もう鳴のアンチなんていないから、見た方がいいぞ」
……学園用とは言え、SNSでやっていこうって言いつつ、自分が見ないのは大きな矛盾だな。
「つか、鳴、気付かないか」
「うん、何を?」
「女子たちお前のことめっちゃ意識してるぞ」
「え……」
確かにユッキーの言う通りチラチラ視線は感じる。
「よかったな鳴……来たんじゃね? モテ期」
モテ期……むしろ今こられたら色々困る気がする。
「まあ、とりあえずSNS見てみ」
ユッキーに促され学園SNSを見た。
「……」
すごい数だった。
織りなす音の反響がやばかった。
衣織の人気はいつも通りだけど、僕に対する書き込みも多かった。
褒めちぎられていた。
『かっこいい』『可愛い』『イケメン過ぎ』『フェロモンがヤバい』
ギターに関してはほぼノーコメントだったがそれはいいだろう。
『素敵な曲』『感動した』『もっと聞きたい』『窪田さんの歌サイコー』
ちゃんと曲が評価されていたからだ。
ヤバい……めちゃめちゃ嬉しい。
泣きそうだ……。
何か、これだけでも頑張った甲斐があったと思ってしまう。
ここからがスタートなのに。
達成感でいっぱいだ。
そして更に、読み進めて行くと。
『鳴様ヤバすぎ、嫉妬しちゃう』『どうやったらあんなに可愛くなるの?』『めっちゃ可愛い、今度メイクのやり方教えて欲しい』
女装に関する書き込みが増えてきた。
おや……?
そしてやっとソースを発見した。
鳥坂さんのSNSだった。
鳥坂さんのSNSを覗くと……女装バージョンの動画が公開されていた。
まあ、許可は出したからいいんだけど……本家のファーストMVに近い再生数を叩き出していた。
なんか、微妙な気分だったけど、あのミュージック・ビデオのクオリティーなら分かる。
でも……この再生数。
本家で流したらどうなるのだろう?
客観的に見て、僕の女装はエンターテイメント性が高いと思う。
ミュージシャンも視野を広げるとエンターテイナーだ。
そのエンターテイナーが、このエンターテイメント性の高い作品を利用しないってのはどうなのだろうか?
もしかすると、僕は女装について、真剣に向き合う必要があるのかも知れない。
————————
【あとがき】
開かれた扉ってそっち?!
ちょっとイージーミスが目立ってきましたので、明日の更新はおやすみするかも知れません。
本作が気になる。応援してやってもいいぞって方は、
★で称えていただけたりフォローや応援コメントを残していただけると非常に嬉しいです。
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