第19話 寝顔
「ねえ鳴、ちょっと来て」
リビングでテレビを見てくつろいでいた衣織に呼ばれた。
「今日、鳴が会った人ってこの人?」
テレビに映っていたのは昼間、僕に名刺をくれた女の人だった。本当に有名人じゃないか……。
「うん、この人だよ」
「え! なに! 兄貴、
「会うどころかスカウトされたのよ」
「え——————っ! 凄いじゃん兄貴!」
凛のこの驚きっぷりだけで佐倉さんの凄さが分かる。普段凛はこんな風に声をあげて驚いたりしない。
「でも、女装だったんだ……」
「あ……あぁ」
露骨に嫌な顔をする凛。
「ていうか、女装の鳴に声を掛けてきたんだから、凛ちゃんでもスカウトされたんじゃないの?」
あ、そうだ失念していた。僕と凛は双子なのだ。
「そうだよ凛! 凛が佐倉さんにメッセージしてみたらいいんじゃない」
「は? 何の話だよ」
「佐倉さんと会ったのは一瞬だったんだ。で、メッセージを送ってくれって、コレを」
佐倉さんにいただいた名刺を凛に見せた。
「あーっ、なるほどね。でも、わりーな兄貴、凛はそう言うの興味ない」
だと思ってました。
「それにな……凛がこんなことを言うのも変だけど、女装の兄貴はなんか独特の雰囲気があるから、声を掛けてきたのはその辺もあるんじゃね?」
「う、うん……確かに独特の雰囲気があるわね」
え、そうなの……自分では全然わからない。
「いくら双子でも違う人間が、メッセージするのは失礼だよ。兄貴が送りな」
正論です。
「いつか現場で会うこともあるかもしれないしね、正直に女装ですって返しておけば?」
「うん、そうするよ」
僕は衣織の言う通り、正直に女装だとメッセージを送っておいた。
「送った」
「「はやっ」」
「今送っておかないと忘れそうだったから」
とりあえず、これでスッキリ眠れる。
***
——なんてことはなかった。
いや、佐倉さん問題はスッキリしたのだが、衣織が今日の振り返りをやろうと部屋に来て、僕の隣で先に眠ってしまったのだ。
僕が鳥坂さんのノートについて熱弁している時のことだった。
もしかして専門的なことを熱く語りすぎて、退屈してしまったのかもしれない。
まあ、今日は過密スケジュールだったから、疲れていたのもあるだろうけど……とりあえずどうしよう。
このままシレッと僕も隣で寝てしまってもいいいのだろうか。
……それにしても、可愛い寝顔だ。
これ写真撮ったら絶対怒られるよね?
僕はスマホに何度も手を伸ばしそうになったが、脳内メモリに焼き付けておくにとどめた。
「……」
キス……キスしても怒られないかな?
同棲を始めてから、キスは日常的にしている。
まあ、ライトな方だけど……ぷるんぷるんの唇の誘惑が目の前にあると……男としては。
いやいや我慢だ。
その後も僕は色んな葛藤を繰り返した。
でも、隣でシレッと寝てしまう誘惑には抗えなかった。
隣で横になり寝顔を眺めるこの時間は……至福だ。
自然とニヤニヤしてしまう。
「……」
もうちょっと近くぐらいはいいよね?
僕はもうちょっとだけ距離をつめた。
このままぎゅっと抱きしめたい。
その胸に顔をうずめたい。
色んな煩悩と葛藤しながらモジモジしていると。
「ねえ鳴、彼氏なんだからもうちょっと積極的になってくれてもいいんだからね」
もしかして……ずっと起きてた?
「お……起きてたんだ」
「うん、ずっとね」
あは……。
「寝顔を撮らなかったことは褒めてあげるわ」
セーフ、我慢してよかった。
「正直ちょっと笑いをこらえるのが大変だったんだけどね」
「え、そうなの?」
「もう、動きが可笑しくて」
確かに、はたから見たら挙動不審だったと思う。
「おいで鳴」
衣織が両手を広げて僕を誘う、そして僕は誘われるまま衣織の元へ……衣織は胸元あたりで僕をぎゅっと抱きしめてくれた。
期せずしてその胸に顔を埋めたいは達成だ。
つか、そんな下心よりも……安らぐ。
衣織のいい匂いと肌の温もりが、撮影の疲れを癒してくれるかのようだ。
「私、こうしてまったりしている時間が好き」
「僕も好きだよ」
「でも、鳴はエッチなことしたいんじゃないの?」
「もちろんしたい! でも凛がいるし……」
「凛ちゃんがいなかったらしてた?」
「うん」
「そう、でも今はこれで我慢してね」
衣織と熱いキスを交わした。
何度も、何度も。
衣織とイチャラブできて嬉しかった反面、色々と我慢するのが大変な甘い夜だった。
————————
【あとがき】
やったね! 鳴!
新作公開しました!
『幼馴染の女神に神界を追放・ざまぁされた俺は聖女パーティーのパシリで養われています』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054898612884
読んでいただけると嬉しいです!
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