第11話 義妹

 メミ・C・モナー。

 俺の義妹であり、モナー伯爵家次期当主。

 そして、俺を強制退学に追いやった張本人。


 そんな彼女が俺たちの目の前にいた。彼女の紺色の髪がふわりと揺れている。


 確か、今の時期はちょうど夏休み。全寮制のゼルコバ学園は、長期休暇になると、実家に帰ることができるようになる。

 だから、メミは実家ここにいるのだろうが……。


 表世界でメミと会うのは、久しぶりなせいか、変に緊張してしまう。

 裏世界で会った時は、メミはへばっていたし、突然のことだったから、何も思わなかった。


 しかし、いざこうして、メミと対面すると、思うように声をかけることができない。

 俺が唾を飲みこんでいると、メミはおっさんリコリスの方へ足を進めていた。


 「お父様から、お兄様が美しい女性ひとを連れて帰ってきたと聞いたのですが………」


 メミは、おっさん化したリコリスを見上げ、顔をクシャりとしかめる。


 「この人がお兄様にとっての美しい女性ですか………なるほど、お兄様にはそのようなご趣味があったのですね」


 冷酷な声で話すメミ。

 今のリコリスの服は、元々ファンクではあったが、女装姿には変わりない。


 か、完全に誤解されている。おっさんを女装させるとか、俺にはそんな趣味はない! 男を好きになる趣味もない! 俺は健全男子! 美女が好きだ!

 俺がそう弁明しようとした時、リコリスが先に口を開けていた。


 「あんたさ、私のこと覚えてないの? 私、あんたのほっぺたつついて遊んでたんだけど?」

 「一体何の話をなされているのですか? ………あなたのような変態さんに会ったことはございませんが?」

 「へ、変態だって?」

 

 リコリスはムカついたのか、「この人間おもちゃめ」とぶっきらぼうに言い放つ。

 一方、メミも、汚らわしいものを見るかのような目を、リコリスに向けていた。


 「おっさんのくせに女の服着て、何が楽しいんですか? 見苦しいだけですよ?」

 「おっさんでもこういう趣味がある人もいるでしょ! い、いいじゃない! 自分の趣味ぐらい勝手にさせてよ!」

 

 リコリスは、メミの意見に対して必死に反論する。

 ………今話すべきことは、そこじゃないと思うのだが。


 大体リコリスはおっさんじゃないんだし、そんな必死にならなくても。

 妹は、ハァと息をつくと、俺の方に瞳を向けてきた。

 

 「まぁ、どうせお兄様がさせたことなのでしょう。お兄様が欲深いことは、重々承知しておりましたが………まさかこれほどとは」

 「これは俺が望んでしたわけでは………」


 確かに魔法をかけたのは俺だが、決して望んでやったわけじゃない。

 こんなおっさん、俺は求めていないから。ていうか、誰が求めるんだ、こんなおっさん。

 メミは、リコリスの横を通りすぎると、俺の正面で足を止めた。


 「そういえば、お父様から聞きましたよ。学園の通い直しをなさるようですね」

 「あ、ああ………」


 俺はぎこちなく返事をする。

 その瞬間、メミの黄色い目が鋭く光った。


 「人から奪った能力・・・・・・・・でせいぜい頑張ってください」

 「………?」


 そう言い捨てると、メミは俺の横を通り過ぎていった。

 人から奪った能力って………別に誰からも奪ったわけではないんだが。裏世界に行ったら、なぜかLv.8000あったんだよ。

 そう言っても信じてはくれないのだろうけどさ。


 俺は何も答えることができず、自分の部屋へと向かうメミを目で追いかける。

 ………それにしても、なんであんなに俺に当たってくるのだろう。一体に俺の何に怒っているのだろうか。


 メミのせいで、強制退学を食らった。

 もちろん、俺はメミに腹が立っている。しかし、「なぜ?」という感情の方が強かった。


 今まで多少ケンカすることはあったが、基本仲良くやってきていた。辛いことがあれば、2人で乗り越えた。俺は、妹との間に何もなかったはずだ。


 ………問題はないと思っていたのは俺だけだったのか?

 そう思いながら、俺は、去っていくメミの背中をじっと見つめていた。

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