第12話 おじいちゃん

 おっさん化したリコリスは、「あんたの魔法をかけられるのはこれ以上嫌!」と言い張るので、自分でなんとか変身魔法を習得し、いつも通りの姿に戻していた。もちろん、角は消した状態だ。


 その日の夕食、俺は親父とリコリスについて話し合った。彼女が悪魔であることを伏せて、再度彼女が俺の弟子であること、1人で行くところがないことなどを話した。


 リコリスは弟子であることを頑なに否定していたが、面倒なので無視。

 結局、俺が不在の状態でずっと俺の実家ここにいても仕方がないので、リコリスも入試試験を受けることになった。


 悪魔が学園なんかに通ってもいいのだろうかと思ったが、誰もリコリスが悪魔であることに気づいていない。きっと、こんな小学生みたいな脳の女が悪魔だとは思えないのだろう。


 そうして、次の日から俺たちは、入試試験に向けて勉強に励んでいた。試験は秋にあるが、1度受けている俺は勉強方法が分かっていたので、困ることはない。


 問題は悪魔女………なんて考えていたが、それほど大きな問題ではなかった。

 リコリスは、意外にも勉強ができ、分からないところがあっても、俺が教えてやるとすぐに理解していた。


 普段の生活も頭いい子ちゃんでいてほしいぜ………。


 再入学ってことは、メミたちの後輩になるってことだが、それでもいい。

 技術試験に困らない、普通の学園生活を送れさえすれいいんだ。

 

 リコリスとともに勉強し始めて、数日たったある日。


 突然、親父に「ちょっと学園に行ってこい」と言われた。

 なぜ行かないといけないんだ? と問うたが、親父はにひひっと笑うだけで、はぐらかされた。


 ………まぁ、休憩がてら、外に出かけるのもいいか。

 そう考えた俺は、リコリスとともにゼルコバ学園に向かった。


 夏休みに入っているので、学生はほとんどいない様子だった。かなり静かで、草木の揺れる音やセミの声が響いている。

 懐かしいな………。


 俺は学園の校門をじっと見つめていると、赤髪ボブヘアの少女が目に入った。彼女は、ルンルン気分で校庭を歩き回っている。その様子を観察していると、最終的には華麗なバレエを踊っていた。

 ………学生服着ていない。学園関係者だろうか?

 

 学園に来たとはいえ、俺たちは、部外者であるため、赤髪の少女のように入ることはできない。今日は校門を見るだけだ。

 そのことに不満だったのか、リコリスはプクーと頬を膨らませている。


 「せっかく学園に来たのに何もしないの?」

 「ああ。俺はこの学園の学生じゃないから入れない。手続きを取れば、入れてくれるだろうけど、入ったところで用はない」


 ほんと、なんで親父はここに行けと言ったのやら。

 親父の考えが分からず悩んでいると、リコリスは、にひっと笑みを見せてきた。


 「バカ、用はあるじゃない」

 「え? ないと思うが?」


 試験の時に用があるくらいだ。今日は何もない。

 俺が首を傾げていると、リコリスは呆れ顔で、言った。


 「分かんない? ここはLv.9000越えのあんたを追い出した学園なのよ? することは1つに決まってる! この学園をドカーンと爆発することよ! ドカーンと一発復讐ってね! アハハっ!」


 両手を広げ、げらげらと大笑いをするリコリス。

 すると、校門前にいた見張りが、リコリスの声に気づき、こちらに目をギラリと向けてきた。


 「おい、そこの君。爆発とか言っていたが、何をしている」

 「あ、ええと………」

 「この学園を爆発させにきました」


 口籠っていると、リコリスが真顔でどストレートに答えた。

 んがあぁっ! 何言ってんだよ! この悪魔女!


 見張りの男はキッと睨みを向けてくる。俺もリコリスを睨みつける。

 しかし、悪魔女は、キョトンとして首を傾げるだけだった。


 こんのぉ………。

 悪魔女がどうしようもないと判断した俺は、作り話をし、見張りの人に笑顔で説明した。


 「あ、あの………この子、学園に入学しようとしているものなんですが、ちょっとばかし爆発魔法が好きすぎて、学園を前に興奮しているんです。失礼しました」

 「何言ってんの? ネル? 私は本気でばくは………」

 「さ、行くぞ」


 これ以上リコリスが変な発言をしないよう、俺たちはすぐに校門前から立ち去った。


 「おい、お前何してんだよ。変に目をつけられたじゃないか」

 「別にいいじゃない。爆発させちゃえば、学園もろとも一緒に消えていくんだから」


 さすが悪魔。復讐に置いてはやることがぶっ飛んでいる。

 俺は、校門へと戻ろうとするリコリスの手を引き、学園の付近を適当に歩く。数分歩いているうちに、悪魔女の興奮は収まり、大人しくついて来ていた。


 十分に散歩したし、そろそろ帰ろうか………。

 家に戻ろうとしたその時、背後から声を掛けられた。


 「そこの君」


 振り向くと、そこにいたのは1人のおじいちゃん。

 あごひげが長い、灰色髪のおじいちゃんだ。一見弱々しく見えるものの、どこか不思議なオーラを放っていた。


 「えーと、どうしました? お困りごとでも?」

 「いいや。困ったことはないんじゃが、君に用があっての」

 「用?」


 俺は、このおじいちゃんに会った記憶などない。

 一体誰だ………?

 警戒心を抱いていた俺を察したのか、おじいちゃんは思い出したかのように話し始めた。


 「おぉ………名乗り忘れておった。わしは、コンコルド・セッラータという者じゃ。君はネル、ネル・モナー君だろう?」

 「はい、そうですが………」


 俺の名前を知っている………………本当に誰だ?

 コンコルドという名は、どこかで聞いたことがあった。しかし、このおじいちゃんの顔は見たことがない。


 隣にいるリコリスは「この人、おもちゃにできそうにないわ。なんか変なオーラを感じるもの」と話しかけてきたが、とりあえず無視。


 俺は、自分の記憶を必死にたどり、数秒間考えていると、ふと思い出した。

 おい、ちょっと待てよ………コンコルド・セッラータだって!?


 「何驚いた顔をしてんのよ? ネル、このおじいちゃんと知り合いなの?」

 「………知り合いではない」


 知り合いではない………それは事実。もちろん、会ったこともない。

 だが、俺はこのじいちゃんの名を知っている。学園に通っていた者が知らないはずがない。


 「ねぇ、あんた誰?」


 リコリスは、訝しげな顔を浮かべ、尋ねる。

 すると、おじいちゃん………いや、セッラータ先生は、丁寧に頭を下げてきた。


 「悪魔のお嬢さん、これはこれはどうも。わしは、ゼルコバ学園の学園長をやらせてもらっているものじゃよ」

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