第10話 角消去の代償?

 「つのかぁ………」


 久しぶり自分の部屋に戻った俺は、リコリスとともにお茶をしていた。

 1年たっても、部屋の様子は変わらず、全てがそのままだった。

 窓の外は、オレンジ色の空が広がっている。


 たった1日で色々あった。そして、長かった。まぁ、時間を動かしていたせいだが

 部屋には俺以外いないので、リコリスは、深くかぶっていたフードを取っていた。彼女は、悪魔とは思えない優雅な姿で、お茶を飲んでいた。


 俺は、リコリスの頭にちょこんと生えた角を見つめる。

 フードを被ったままでは、いられないだろうな………。


 「なぁ、そのお前の角どうにかできないのか?」

 「これ? 私にはどうにもできないわ。変身魔法ならどうにかできるかもしれないけど、私、変身魔法なんて使えないもの」

 「へぇ………」


 変身魔法か。

 そういや、学園通っているとき、一生懸命勉強したな。使ったことはなかったけど。

 しょぼい魔法しか使えなかった俺ももちろん、一度も使ったことない。ていうか、使えなかった。

 でも、変身魔法自体は、そこまで難しくなかったような気がする。


 「変身魔法を使えたらいいんだよな?」

 「………まさか、自分の魔法を使うんじゃないでしょうね?」


 リコリスは俺の考えを察したのか、訝し気な目でこちらを見る。

 きっとさっきのことを思い浮かべているのだろう。

 俺の魔法は、表世界にきてから、散々だった。


 山は2個消すわ、遠い過去や未来に移動するわで、1回で成功した例がない。

 ………でも、相手はリコリス。最悪失敗しても、角が長くなるだけだろう。

 誰かがリコリスの姿を見たら、ハロウィンに向けて悪魔の仮装を考えているんです、とか適当なことを言えばいい。


 「試しにやってみるのもいいだろ? ダメだったら、何度もやり直せばいんだし」


 リコリスは、うーんと唸りながら、熟考した末、ハァと息をついた。


 「………分かったわよ。私には、何もできないし、角を生やしたままだと、自由に動けないし。どうぞやってちょうだい」


 俺は、杖を手に取り、意識を集中させる。そして、杖先をリコリスの頭に向けた。


 「アティチュードカンビャメント!」


 魔法をかけると、リコリスの体が、白く光りだす。

 数秒して、光が収まると、確かにリコリスの角は変化していた。

 角はきれいさっぱり消えていた。

 消えていたのだが………。


 「………プグっ」

 「なんで笑うの?」


 リコリスは、おっさんになっていた。黒髪ロングのガタイのいい、おっさんに。

 幸い、服も一緒に形態を変えており、裸のおっさんを見るのは避けれた。

 自分の巨大な手を見て、キョトンとするリコリス。そして、彼女は黙ったまま、部屋の隅に置いていた姿鏡の方に向かい、自分の姿を目にする。


 「え?」


 すっとぼけた低いおっさんの声が部屋に響く。

 声変わりまでしているから、なおさら笑いが………。


 「角だけを変えるって言ったじゃない! なんで全身を変えてんのよっ!」

 「い、いや、俺はそんなつもりは………プっ」

 「何笑ってんのよ! 絶対楽しんでるんでしょっ! ふざけないでよっ!」


 内心俺は、おっさんリコリスを見て、愉快だった。大笑いはしないものの、声を出さず笑っていた。

 悪魔女が、筋肉ムキムキおっさんに変わるとか………制御できないけど俺の魔法、センスがあるな。

 リコリスは、自分の顔をペタペタと触り、叫んだ。

 

 「しかも、おっさんだなんて! よりによって、この私がおっさんに変わるなんてっ! あ゛あぁぁぁぁぁ——————!!」


 パニックを起こし始めたおっさんリコリスは、部屋を飛び出す。

 ちょ、待て。その姿のまま出ると色々まずい。

 何も知らないやつにとって、今のリコリスはただの女装姿のおっさん。ヤバいぞ。


 リコリスを追いかけ、俺も廊下へと出る。

 遠くに行ったと思ったら、そこに立ち止まったリコリスがいた。


 「おい! その姿を他の人に見られたらどうするんだよ」

 「そのご忠告は手遅れね………」


 俺は、恐る恐るリコリスの視線を追う。リコリスの向かいには、1人の人が立っていた。


 「お兄様………」


 そこにいたのは、学園から戻ってきた妹、メミだった。

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