第5話 戸惑いの芽吹き

小雨が降ってきた。

たぶん通り雨だろう。


少しずつ辺りが暗くなって、

美術室の窓から吹き込む風が急に冷たくなった。


〜♪…〜(チャイムの音)


授業終了のチャイムが鳴った。


ナツ「お話ししてたらあっという間に授業

   終わっちゃったね!(ニコニコ)

   私全然下書進まなかったよ(笑)」


僕にとってこの50分はとてつもない長く感じた。



ナツ「また一緒の席になるといいね!」


そう彼女は僕に言ってきた。


そんなの二度と御免だ。

隣同士なんて授業妨害されるだけだ。



僕は早々と下書を教卓に提出して美術室を出た。


教室に戻ると黒板に清掃班が貼り出されていた。


今週から清掃場所が変わるのか…


1班・・2班・・4班 体育館

          倉庫-相沢・石田

         トイレ-神崎・高橋

         モップ-暁・吉沢



見た瞬間、僕は自分の目を疑った。


不幸が重なるっていうのはこういうことだ。



そこに彼女がやってきた。


ナツ「あっ!吉沢くん掃除場所一緒だね!」


また余計な事を。


その瞬間、他の男子達が恨めしそうに僕を見ているのが視線で伝わった。


まだ転校してきて一日も立たないのにも関わらず、

その親しみやすい性格と、底無しの明るさで早くも彼女はクラスの中心人物のようになっていた。


はぁ…。

座席が近いとこうゆう面倒に巻き込まれる。


これから二週間、彼女と同じ掃除場所なんて、それも二人で…。


僕はすぐに清掃を終わらせようと体育館に向かった。


ガラガラ…(体育館を開ける音)

まだ誰もいない。


パッ…(モップを手に取る)


隅から隅までかける必要なんてない、

大体でやれば一人でもすぐにかけおわる。


僕はモップをかけ始めた。


5分程経ったか、

彼女がやって来た。


ナツ「あー!

   吉沢くん遅くなってごめんね(汗)

   こんな所までモップかけてくれたん

   だ、ありがとう」



そう言って彼女は急いでモップをかけ始めた。









ナツ「よしっ!

   おわったー!!

   吉沢くんがほとんどかけてくれたから

   すごい楽ちんだった」




帰るか。

僕は荷物を取りに体育館を出ようとした。


その時…


シュッ!  ッパ、


彼女は倉庫からバスケットボールを持ち出してきて、いきなりシュートした。


ナツ「私ね、バスケ部に入ろうと思うんだ!

   吉沢くんは何か部活に入ってる??」


「入ってない」


ナツ「そっか!

   中学生の時は??」


「途中までサッカー」


ナツ「だと思った!

   吉沢くんサッカー部っぽいもん」


「……」


ナツ「吉沢くんってもう帰る??」


「……うん」


ナツ「じゃあ昇降口まで一緒に行こうよ!」



呆れた僕は何も返答しないで歩いた。


彼女はいいと勘違いしたのか、僕の数メートル後をついてきた。


お節介にも程がある。





急ぎ足で昇降口に着くと、すでに雨は止んでいた。


ナツ「吉沢くんって帰り道どっち方面??」


「あっち」


ナツ「私と同じだ!

   途中まで一緒に帰ろうよ♪」


昇降口までじゃなかったのか…。





月日は早くも6月後半に入って、裏門を抜けた先には沢山の紫陽花が咲いていた。



ついさっきまで雨が降っていたせいか。


花弁の表面に残った数滴の雨水が、

雲の隙間から差し込む太陽の光で眩しく光っている…。

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