第4話 オレンジの思い出
「ふぁーーギリギリ間に合ったー!」
こんな声が隣から聞こえた。
作品の描く内容が決まっていた僕は授業が開始直後に作品の下書きを始めた。
授業が始まってすぐのことだ
ナツ「私まだ何描くか決まってないんだけれ
ど何がいいと思う??」
「……。」
ナツ「うーん、どうしようかな」
クラス、いや、学年で今一番注目されている彼女と会話をするなんてどれだけ面倒に巻き込まれることか。
だが、彼女は続けてこう言う。
「(カイトの絵を覗きながら)
えーっ!すごい絵上手なんだね!」
「私も海大好きなんだ!
学校の近くにもあるよね!」
いつまで一人で話す気だ。
ナツ「ねねっ!そういえばまだ名前聞いて
なかったよね!
名前なんていうの??」
「……。」
ナツ「うん⁈ なになに??」
しつこく話しかけてくる彼女に、僕は自分が黙ってるのが急に馬鹿らしくなってきた。
「…吉沢」
ナツ「吉沢君ね!!下の名前は??」
「……カイト」
ナツ「吉沢カイト君ね!
改めてよろしく!!」
「吉沢君っていつも静かだけど何考え
てるの??」
カイト「別に何も」
ナツ「そっか!(ニコニコ)」
僕は彼女のペースに呑まれてるような気がしてならなかった。
すると突然…
ナツ「あっ!私何描くかきまった!」
彼女はそう言い放って何かを黙々と描き始めた。
しばらくすると、鉛筆で薄く描いた下書用紙を僕に見せてきた。
ナツ「みてみて!これ、みかん園!」
「私のおばあちゃん、みかんの栽培して
たんだけれど、毎年みかんが実る時期
には一面オレンジになって綺麗だった
んだよ!」
「みかん園の中を一日中駆け回ったり、
甘酸っぱい採れたてのみかんを食べた
りしたの(ニコニコ)」
そう興奮気味に話してきた。
でも不思議と不快には感じなかった。
彼女の生き生きとした話声は、まさに今、
一面オレンジのみかん園にいるような錯覚を起こさせた。
ナツ「でもね…もう、みかん園は無いんだ」
彼女は一変して悲しげな声でそう言う。
ナツ「何年か前にね、台風でみかん園、
めちゃめちゃにされちゃったの…。」
「もっと辛かったことはね、
おばあちゃんが駄目になったみかん
園を見て泣いてたんだ。
すごく大切だったと思うから。」
ナツ「なんだか吉沢君には何でも話せちゃ
うね!(ニコニコ)」
悲しげな表情から、またすぐに笑顔になって僕にこう言ったんだ。
喜怒哀楽が激しいというか、
こんなこと言ってくる奴なんて余程の変わり者だ…。
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