第7話 郷愁

 大規模な作戦を実行することになる、と通達が出た。ナギはこの発表を楽しみにしていた。前回戦ったのは突発的なもので、計画された作戦は初めてだったのだ。ナギは初めてのことが好きなので、こうして前線に出るのを、単純な興味から心待ちにしていた。

 相手は100人を超える軍勢、対する革命政府軍は4人の組が12組、つまりこちらの人数は半数にも満たないのである。それでも戦力的には拮抗しているか、こちらが強いと思われた。旧政府軍は戦力としている元農民に、何の技術的援助もしていない。一方こちらはたたき上げの軍人か、地下街で仮にも暴れまわっていた傾奇者である。当然、相手に比べれば人的資源は少なくて済む。

 作戦前夜は一応、チームでのミーティングが組まれていたが、特に話すこともないので自然と雑談になる。ナギは何の気なしにパウラに話しかけた。


「パウラはどうしてここに?地下で喧嘩してたクチにも見えないけどな」

「うちは家が苦しいから、自分だけで生きていけるように手に職をつけただけ。運動はできたから、軍隊なら家にお金を入れられると思って」


 明るく答えるようなことには思えなくて、ナギは言葉に詰まった。パウラはたいして重いことでもないように肩をすくめて、それが何か、と首を傾げた。真面目なんよこいつは、とケニーが言う。あんたは不真面目すぎる、とパウラが言い返す。ナギはどう口を挟めばいいのか分からずに、瞬きを繰り返した。


「親に迷惑をかけるのも、かけないのも、いいことだよ。親がいるからこそ成り立つことだからね」


 ユキが小さくつぶやいた。いよいよ、親が健在であり、それを気にせず喧嘩ばかりしていたナギには、発言しづらい状況である。部屋に沈黙が降りる。辛気くさ、やめやめ、とケニーがつぶやいてくれたことで空気が和らいだ。とはいえ完全にではない。ごめんなんか、と察したユキが言ったが、時間が終わるまで部屋の空気は淀んでしまった。話題提供を間違えたな、とナギは一人反省会を実施しながら、自室へ帰って、ベッドにもぐりこんだ。

 当日。朝、集まった四人は、ナギ以外昨日のことがなかったかのようにごく普通にしゃべっていた。普通だ、とナギは思う。ありがたかった。

 スカーレットが全体に説明を行い、全員の動きを確認する。ナギも昨日のことをやっと忘れてきた。


「ナイフの切れ味は?」

「上等。昨日カボチャ切った」

「それ脆くなってんのんとちゃう?」

「昨日切った後ちゃんと研いだわ」

「サイレンサー今度は外れないようになってるだろうね」

「うっ……その節はすみませんでした」

「ユキのトカレフはどうなん、前なんだか調子悪かったやんか」

「三人向こうの頭撃てる」

「おおこわ。ナギは?切り刻めそう?」

「任せとけ」


 いざ、出陣。

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