第5話 出会

 食堂には既に人が溢れていた。

 スカーレットが近づいてくるのを目の端で捉えて、ナギは軽く会釈した。スカーレットは嫣然と微笑み、立ち止まり、こちらに手招きをした。ナギとリラがそちらに向かうと、スカーレットはひら、と手を振った。


「お疲れ様、ごめんね初日にこんなことになって。ナギ君のチームが決まったから顔合わせに案内しようかと思って」

「とするとボクはもう彼とは関わらないのか?」

「まさか、二人でやってもらうときはあるよ。―ああ、シアンのことが心配?彼女は新たに四人のチームを組んだから」

「了解。まあシアンはボクが心配するほど弱くないから」


 どうも新しくチームを組むらしい、ということまでしか分からなかったので、ナギは甚だ不安である。地下街で見知った奴ならまだしも、スカーレットが口にした三人のことは、


「名前だけ先に教えておくね。ケニー、パウラ、ユキ、の三人」


 一人も知らなかった。まあ友達少なかったからな、とナギはあきらめた。第一、疲れていて頭が回らないからか、会ったことがあるにしても思い出せないかもしれないのだ。久しぶりに大きく動いたからだろうか、首が痛かった。


「いつも四人で、何人と戦うんだ?」

「多くて20人だろうね」


 意外と少ない。先ほど10人を二人で相手したのは、リラが手練れだからだろうか。

 一つのテーブルに三人が座っていたので、ああこいつらだろうな、とナギは思い、彼らを見回した。煙草の箱を弄んでいるのがケニーだろうか。黒くて伸びた癖っ毛と小さい目、組んだ長い脚。


「さて、この四人でこれから組んでもらうね。よろしくね~」


 スカーレットは軽く言って去って行ってしまった。残された四人には沈黙が流れる。初対面の四人、ものすごく、気まずい。誰に初めに話しかければいいのかすら分からない。ナギはとりあえず、ケニーと思しき人の顔を眺めてみる。彼は視線に気づいて、首をかしげた。


「俺の顔になんかついてる?―さっきのスープのパセリかなんか……」

「いや、なんもついてないけど……ごめんなんか何話せばいいか分からなくて」

「あー、確かにな、あんなんしてほっとかれたら何話すか分からんよな、俺も分からんわ」


 俺がケニーでこいつがパウラ、でその隣にいるのがユキ、とケニーが教えてくれた。パウラはにっこり笑って、ナギくんやろ、よろしく、と言ってくれた。ユキは軽く頭を下げただけだが、笑っているのが見えた。どうもこちらの名前は知れているらしい。


「もともと知り合いだったりするのか?」

「パウラとは幼馴染。ガキの頃からずーっとこいつは変わらん、くそ真面目でおせっかいで……」

「うるさいわ阿呆、あんたが危ないことして遊んで歩いてンのがあかんのやろ」


 同様に危ないことをして遊んでいたナギは耳が痛い限りである。というかユキの知り合いはいないのだろうか。


「ユキ、は?誰か元から知っている、とか……」

「私? 特に知り合いはいないな。出身も、私はだいぶ東のほうだし」

「ちなみにただの興味なんだけど、男で合ってるか?」

生物学的にはbiologically。自分の認識ではどちらとも決めがたいな。どちらに決めようにも居心地が悪い」


 ほおん、とナギはうなずくしかなかった。世界は広い。

 ただ、頭のどこかで、この三人とやるのは面白そうだ、と感じていた。

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