第11話
「みんな、黙ってて。とりあえず。俺が何とかしてみるから」
道々、相手にはわからぬように。
こっそり内側に言いおいて、いざ。
「で」
やってきた、ファミレスで。
黒い詰め襟の学ランを着た、例の目つき悪い君と向かい合って席に座りながら、俺はさらっと口を開いた。
「どのような御用向きで」
さすがに、出会い端にやり合うことになるのは御免被りたかったそのため。
平和主義な俺は、無茶を承知で、学校からそう遠くないこのファミレスに、目つき悪い詰め襟君を連れ込んだのである。
公衆の面前にいれば、そう簡単に危なっかしい真似はできまいと踏んで。
あとは、個人的に腹が減ってたし(緊張感なし)。
とりあえず、適当に色々注文してから、改まって相手に向き直ったら、
「よくもそんなに食うな」
と、また眉をあげて、ヤツはぼそり。
やな感じだ。
「腹が減っては戦はできませんから。まぁ、それはいいとして」
椅子に深く掛けながら、俺は腕を組んで相手に再び問いかけた。
「用件、何です?」
たぶんこれ、物凄く態度が悪く見えるぞ新埜。
(まぁいっか)
開き直ったら俺は強い。
更に俺は、真顔でやなことを言い出した。
「俺のファンじゃないでしょ、オタク」
自慢じゃないが、俺は憑神様とかアヤカシ(妖怪)の類には嫌ってほど好かれるが、人間にはさっぱりだ。
(我ながらカナシイヤツだな、俺)
切なくなる胸の疼きは無視。
負けるな18歳!
勿論そんなアホな一面は見せずにポーカーフェイスは気取りますが。
「……しらを切る気か」
対し、目つき悪い詰め襟は、険しい表情に、更に不穏の色を浮かべてみせた。
恐らくこれは、怒っていた。
「とおっしゃいますと?」
とか言い返した俺は、間違いなく煽っていた。
「貴様の式が、うちの犬神に余計なことをしなければっ」
だん、とテーブルをぶっ叩いた詰め襟が、身を乗り出して、向かいから俺の胸ぐらをつかみかかったそのとき。
ーさぁら!ー
ーさらちゃん!ー
内側からの声と、
「お待たせいたしました。特製ハンバーグプレートとポテトの盛り合わせでございます」
ファミレスの店員の声が重なった。
「!!」
はっと俺から手を退いた、詰め襟男。
拍子抜ける内側の気配。
これも、ほぼほぼ同時だった。
「あ、どーも。ここ置いてください」
俺は、不穏を察して腰がひけている店員と、舌打ちする詰め襟を無視して、自分の前のテーブルを指した。
「失礼します」
料理を置いて、逃げるようにその場を離れた店員。
更に不機嫌になった詰め襟をまたもや無視して、俺は勝手に食事を始めた。
「いただきまっす」
ぴくりとあがる、詰め襟男の眉。
ま、いいや。
腹ごしらえが先だね。
「あんた…」
そう言いかけて、詰め襟は黙った。
「なんでしょ?」
「いい。さっさと食え!」
「んじゃ、お言葉に甘えて」
本当に遠慮なく飯を平らげる俺を前に。
不機嫌全開の詰め襟男は、いらいらとテーブルを指先でコツコツいわせながらむっつりと黙り込んだ。
どうやら、待つ気らしい。
ー煽ってどうする、坊ー
呆れたようなオトラさんの声はまぁ、最もなんだけど。
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