第9話

そんなユダと俺。

ユダは、幼なじみでもありながら唯一俺の家の事情、憑神を知り得る貴重な友人でもあった。


「呼んで反応しないなら他の方法考えろよ。俺が憑神様に引っ張られると、長いこと戻らないのは知ってるだろ?」


だからこそ、ユダは、俺がこんな甘えたことを言い出したとて、許してはくれるのだが。

何故奴は、こんなときだけ無駄にキリスト教徒ぶるのか(とはいえ、こいつの言動が、キリスト教の教えに適ってるかどうかは別だ)


「己の行いを悔い改めようともせぬその腐った根性、地獄行きですね、アーメン」


「おいっ」


それはお前に言われたくない、と、俺がユダに向かって言いかけた、校門前。


「ノア?」


不意に打って変わった、ユダの妙な声のトーンに、俺は眉をひそめた。


「ユダ…?」


「あれ、お前の知り合い?」


(え?)


俺は、ユダの視線を追って。

そこで、動きもろとも、言葉も止めていた。

近づいてくるその男の存在、気配に気づいたから。


「あんた」


白い月が出ていた、あの晩に。

俺は、確か、この声を聞いた。

気配と見えた。



――近い内に、必ず…――


夢現。

朧気に記憶の片隅で聞いたあの声。

この、常人ならざる、殺伐とした気配には、覚えがある。


ーさぁら、こいつっー


ーこ奴、先日の呪師でありますぞ!ー


(…なるほどね)


気配が近づくそれに伴って、内側の憑神衆が騒がしくなったわけは。


(勝呂がやりあったの、こいつか…)


恐らくこいつが、先日の「荒神狩り」のときに俺を襲った男だから。


(つくづく今日は、ツイテルネ)




俺は、無意識に、憑渉新埜としての意識を研ぎ澄ませようとしていた。

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