第7話

またそれに応じたら、


ー俺はハゲより、さらちゃんの方が食いたいでー


なんて、陽気な声が、とんでもないことを言い出した。

これは、出身が関西だとかいってる飯綱という憑神様か。


「須皇。それ冗談でも笑えない」


げんなり肩を落とすと、意地の悪い笑い声がきこえた。


ーいやいや、結構ではないか。私も姫は喰ろうてみたいー


あー、さよですか。

この悪乗りしてるテノールの声は、夜刀さんだろう。。

夜刀さんは、本来憑神様じゃあないんだけど、ある日を境に、俺ん中にいらっしゃることになった、いわゆる、山神様みたいな方。


「や。全力でお断りしますんで」


白けた口調でそう応えたそばから、今度は、くそまじめな低い声がした。


ーされば拙者も頂戴したく!ー


「…えーと…」


もはや、返す言葉もないんですが、犬神の天慶さん。


がっくりと肩を落とした俺、奇しくもハイスクール時代最後の年にこの受難ぶり。


(ねぇ。寝不足にもなるよ?日夜こんなのとやりあってたら)


寝不足どころかノイローゼになりそうだと当初は思ってたけど、こうやって俺が複数の憑神様とうまくやっていけてるのは、俺の中では最年長の憑神様、俺の第2の母ともいえる、おトラ狐こと、オトラさんが中のみんなをまとめてくれているからに他ならない。


(そりゃ、俺が特殊な憑渉だってのもあるけどさ)


特殊でなしに、六体もの憑神様は身の内に抱えていられない。

それは、かかるどの憑渉にもない奇跡、と父や叔父はよく話していた。


(や、だからってこんな苦労するような奇跡ならいらないんだけど…)


なんて、本日三度目のため息をついたときだった。


ー七代目。前…ー


「え?」


今までのどの声とも違うハスキーボイスがそう言うのと、


「おい、ノアってば!」


ひそめられた、幼なじみのよく知った声、そして、


「久世えぇぇ!!」


怒髪天、な後藤教諭の奇声。

更に、ダーツ並みの命中率で、俺の額を真っ白なチョークが見舞ったのは、ほぼほぼ、全てが同時だった。

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