第6話
「よそ見するな久世!」
「っ痛ぇ!」
ぱかーん、なんていい音がキマった、とある高校の平和な午後の一場面。
それは、担任の後藤から喰らわされた、容赦ない一撃。
丸めた教科書での一喝攻撃である。
(手加減しろ、この鬼っ)
俺、こと久世新埜(くぜさらや)は、頭を片手で撫でつけながら目尻に涙を滲ませて、後藤を睨んだ。
いくらなんでも今のは痛すぎだという話だ。
睨むぐらいは、せめてもの無言ストとスルーして欲しい。
「お前、今日、三度目だったな。授業終わったら、覚えとけ」
そんな俺に、こめかみを震わせるは、独身貴族、後藤平、三十二歳。
(前髪、そろそろヤバそ)
後退していく前髪、その顔を見る度、そう思ってたりするのは秘密だ。
将来の後藤は、間違いなく増毛計画に必死なおっさんになるに違いない。
(ともすれば、ヅラか)
いや、もうヅラ?
なんて思ってるのはオクビにも出さず、
「はい。すいません」
なんて、とりあえず、謝っておくことにした俺である。
久世のお家の次期当主となる俺に要求されるのは、学生としての秀逸さよりも、家業を体よくこなす憑神を操るエキスパートであること。
学生としては、問題を起こさない程度に平々凡々であればいいと親父にはくどく言い聞かされていた。
だから、学生としての久世新埜として、俺は問題児でさえなければいいのだ。
だからせめて。
せめて俺は、家業に支障をきたさないで穏便に学生生活を送りたい。
(おくりたいんだって)
「はぁ」とため息をつきながら、俺は閉じかけていた教科書を広げた。
その側で後藤は、大層ご機嫌ナナメなそのままに、教卓前に戻って行った。
「寝るんなら、家でしっかり寝てこいってんだよ」
なんてぼやきながら。
でも。
俺だって寝たくて寝てるんじゃないんだよ、後藤さん。
だってさ。
(寝てますって)
家ではちゃんと寝てるんだ、一応。
だけど。
寝ようとしてるけど、夜はあいつらがうるさいし、昼はあいつらに引っ張られるし!
(こっちだって好きでこんなんじゃないんだって)
額を押さえて再びため息。
そんな俺の内側から、不意に声がした。
これは、俺のいうアイツラ。
曰わく、俺の中に棲む憑神様たちだ。
ーすまぬ。またやってしまったかー
そう言った年配の女性の声は、お狐様のオトラさんだった。
「や、いぃよ。別に」
微かな声で、それに応じたら、また別な奴から声があがった。
ーなんなら、俺がどうにかしてやるぜ、そのハゲー
この声は…勝呂。
蛇の姿をしてる憑神様だ。
「や、問題ない。君らが静かにしてくれてたら、全く問題じゃないよ」
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