第5話
中性的な貌の冒険者が、深閉としている森林地帯にぽっかりと地表に開いた黒い穴を発見すると、ほくそ笑んだ。
中性的な貌の冒険者の身体は疾風となって黒い穴へと吶喊した。
――――黒い穴は、言わずと知れた『ゴブリンの巣』だ。
巣穴にどれだけゴブリンがいるかは、その規模による。
中世的な貌の冒険者が潜った巣穴は、見た感じては中規模程度だ
2000から8000匹規模のゴブリンが棲息しているはずだ。
また、巣穴は網目状の迷路の様に入り組んでいるため、熟練の冒険者でも苦労する
――だが、中性的な貌の冒険者に取ってはそんな事は歯牙にもかけてい
なかった。
巣穴に飛び込み、視界に飛び込んできたゴブリン達に肉迫すると、やや前屈みの
状態から、呆然としているゴブリン達の眼前で飛び跳ねた。
短い閃きは喉元に吸い込まれ、ゴブリン達は血煙を纏いつつ錐もみながら
倒れた。
ゴブリンの血の臭いに歓喜の表情を浮かべた中性的な貌の冒険者は、手に持っていた解体用ナイフで倒れているゴブリンの一匹に近づくと、解体ナイフを突き
立てた。
何度も何度も突き刺し、肉を切り取り、内臓を取り出して貪り喰らう。
まるで、何日も食い物を口にしていないような、凄まじい食いっぷりだ。
ゴブリンの死骸から切り取った肉を中世的な貌の冒険者は、咀嚼し胃の
腑に収める。
無我夢中で、ゴブリンの肉を喰らうという狂気の食事に勤しむ中性的な貌の
冒険者を、異変に気付き奥からぞろぞろと姿を現した数百のゴブリンがたじろぎながら様子を見ている。
一心不乱にゴブリンの肉や内臓を貪り続けていた中性的な貌の冒険者は、突然
その行為を止め、手に持っていた解体用ナイフを床に落とした
――――ゴブリン達の鼓膜を不気味な鳴動が震わせた。
それは叫び声だった。
怨嗟と嚇怒に彩られたその叫びは、まるで地獄の底で轟く死霊の雄叫びを彷彿とさせる。
その声の主は、天を仰いでいる中性的な貌の冒険者だった。
全身を震わせながら、中性的な貌の冒険者は『ゴブリンの巣』の壁や床に身体や
額をぶつける。
何度も壁に額は、中性的な貌を血で真っ赤に染める。
それでも双眸だけは爛々と輝かせていた。
また、床に両手の拳を何度も叩きつけてもいたため、そちらも血だらけだ。
床に転がりのた打ち回りながら、喉を掻きむしる。
爪が喉に食い込み、皮膚を掻き破る。
その凄絶な光景にゴブリンの群れは動けなかった。
もとい、動けないというのが正しいかもしれない。
その中性的な貌の冒険者の理解できない行為は、それだけでは済まなかった。
よろめきながら蹲るなり、突然嘔吐をはじめた
ぐぇ、ぐぇと中性的な貌の冒険者が呻きながら次々と口から吐き出される吐瀉物は、新鮮な魚類と牛肉の塊だ
新鮮な魚類は、床で飛び跳ねている。
全て吐き終えたのか、中性的な貌の冒険者はゆらっと幽鬼の立ち上がった。
真っ赤な血で染まった貌や両手の拳、掻き破った喉は、いつの間にか元の状態へと戻っている
双眸を爛々と輝かせながら、床に落としていた解体用ナイフを再び握り締めると
『ゴブリンの肉を喰らうことが自己存在の証だ』と言わんばかりに、たじろいている数百のゴブリンの群れに疾風迅雷の如く突進した。
無防備なゴブリン達を容赦なく肉塊に変える
解体用ナイフでゴブリンの身体を突き刺し、または拳をゴブリンの身体に
打ち込む。
その威力は、内臓をグシャグシャ、または骨を砕くほどの猛烈さだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます