第2話


「貴様、それでも冒険者か?」

 呻く様に尋ねたのは、くすんだ栗色の髪を腰まで伸ばし、 右目を長い髪で隠している男性だ

「俺は、ただゴブリン討伐の依頼を受けたいだけだっ!!

 なぜ受けさせてくれないんだっ!?

 もうかれこれ『ゴブリンの巣』から戻ってから4日もゴブリンの断末魔と命乞いをする声を聞いていないんだっ!!  このままだと気が狂いそうで壊れそうなんだっ!! 『ギルドマスター』!!」

 血を吐くような声で告げているのは、肩に触れない程度の長さの銀髪で、少年にも少女にも見える美しい中性的な貌の冒険者だ

「何を寝ぼけた事を言っている?

 ゴブリン以外の依頼を受けろ」

『ギルドマスター』が短く応えた


 中性的な貌の冒険者と『トラキニア』の冒険者ギルドマスターとのやり取りが始まってから、『冒険者ギルド』のロビーには重苦しい空気が漂いはじめた。

 その様子を大きな酒場と宿場を組み合わせた『冒険者ギルド』のロビーにいる幾多の冒険者達が様子を見ていた。


 様子を伺う冒険者達にもそれそれ反応が分かれていた。

 辺境都市『トラキニア』を中心として活動している冒険者達には、『あ、またはじまったよ』という表情を一瞬だけ浮かべ、視線をわざとらしく反らして無視を決め込む冒険者達。

 もう一つは何か危険を感じたのか、突然、そそくさと『冒険者ギルド』から立ち去っていく冒険者達。

 そして最後は、何処か興味深そうに様子を伺っている、最近『トラキニア』に流れてきた冒険者達だ。


「俺はゴブリン討伐以外の依頼には興味が無いんだっ!!」

 中性的な貌の冒険者が吠える様に告げた

「だから、お前はそれでも冒険者か?

 冒険者ならばゴブリン討伐ばかりじゃなく、他の依頼を引き受けろ!

 迷宮探索、薬草探し、護衛依頼、盗賊討伐、秘宝探索、特定モンスター討伐などなど・・・

 ここは『冒険者ギルド』だぞ! 冒険者が冒険しなくてどうする?」

『ギルドマスター』が淡々とした声で応えた


!!』

 中性的な貌の冒険者が大声でそう告げた。

 その言葉にいささかムッとしたのは、他の地域から流れていた冒険者達だった。

 逆に辺境都市『トラキニア』を中心として活動している冒険者達は、『また言ってやがるよ・・・』と言った感じだ。

「・・・・本当に『冒険者ギルド』内で良く何回も言える言葉だな。

 

『ギルドマスター』が淡々とした声で応えた


「いいからさっさと、ゴブリン討伐を紹介してくれっ!!

 お願いだっ!!  

  ゴブリンを殺させてくれ!!

  ゴブリンを殺させてくれ!!

  ゴブリンを殺させてくれ!!

  ゴブリンを殺させてくれ!!

  ゴブリンを殺させてくれ!!

  ゴブリンを殺させてくれ!!」

 少年にも少女にも見える美しい中性的な貌の冒険者は、魂を削る様な声で叫び、

 受付カウンターのテーブルに、

 その奇怪な光景に、中世的な貌の冒険者に問い詰めようとしていた他の地域から

 流れていた冒険者達は、全員表情を失った。

 テーブルにぶつけた額からは血が流れているが、中性的な貌の冒険者は止める気配はなく、異様なほど静まり返っている建物内に、額をぶつける音だけが響く。


「ゴブリン討伐に見向きもしないし受ける冒険者もいないため、それに関しては助かっている部分もあるが・・・」

 額をぶつけている中性的な貌の冒険者の様子に、動じる様子もなく唇を歪めながら応える。

 恐らく、

「これ以上ゴブリンを殺させてくれなかったら、精神が壊れちまうっ!!」

 中性的な貌の冒険者が荒い息をつきながら、血だらけの貌を「ギルドマスター」に向けた。

 凄絶な貌となっていた。

 しかし、そこで摩訶不思議な事が起こった。


 僅か数十秒ぐらいだろうか、

 血も奇麗さっぱりと消えて、元の少年にも少女にも見える美しい中性的な貌に

 戻った

 その様子をすでに何回も目の当りしているのは、『トラキニア』を中心に活動している冒険者達だ。

 そのため動揺した様子はなく―――――もとい、関わりたくないという感じだ

 だが、他の地域から流れていた冒険者達は、唖然とした表情を浮かべている。

 こんな光景を見せられたら、幾ら修羅場を経験している冒険者達でもたまったものではない

「この『ゴブリン狂い』

 他の冒険者の邪魔になるから、これを受けろ」

「ギルドマスター」は、一つ嘆息をつくと紙切れを手渡した



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る