ゴブリンを喰らう死なずの冒険者
大介丸
第1話
辺境の街『トラキニア』から徒歩で三時間ほど北の外れに、最近発見した『ゴブリンの巣』があった。
巣の中では、一匹のゴブリンが襲いかかる恐怖に怯えていた。
怯えるゴブリンの視界の先に、薄明るい中に人の影かあった。
人の影は、肩に触れない程度の長さの銀髪で少年にも少女にも見える美しい中性的な貌だ。
服装も、この世界で活動する冒険者らしい軽装だ。
中性的な貌の冒険者の付近には、凄絶な闘いを終え息の根を止めたゴブリンの屍があった。
全身を纏った軽装は、ゴブリンの血潮で赤黒く染まっている。
空の右手が、踏みつけ抑えたゴブリンの死骸から、突き立てられている解体用ナイフで肉をかき分け、内臓を引きずり出した。
少年にも少女にも見える美しい中性的な貌から異常なほど荒い鼻息が聞こえる
それは力の入る作業を行っているせいばかりではなく、むしろ込み上げてくる精神の昂ぶりからくる様だった
引きずり出した内臓をみた中性的な貌の冒険者は、頬をわずかに緩ませ、穏やかな 笑みを浮かべた。
そしておもむろにゴブリンの内臓にむしゃぶりつくように食らう
生き残っているゴブリンは、両の眼から溢れた涙が醜悪な顔面を覆っていた
脂汗が頬を伝って落ちる。
ゴブリンの内臓を咀嚼しながら解体用ナイフで、内臓を引きずり出した死骸に何度も何度もナイフを突き刺し、ゴブリンの肉を切り取る。
咀嚼物を飲み込んで、ゴブリンの肉に取りかかろうとした、突然、中性的な貌の
冒険者が動きを止めた。
虚ろな眼で一定の場所に視線を向ける事数十秒―――――
全身を震わせ肺から絞り出されるような絶叫を発した。
そしてのた打ち回る様に巣の壁や床に身体や額、そして両手を狂った様にぶつけはじめた。
「腹減った!! 腹減った !! 腹減った!!
腹減った !! 腹減った !! 腹減った!!
腹減った !! 腹減った !! 腹減った!!
腹減った !! 腹減った‼ 腹減った!!」
中性的な貌の冒険者が、喉が張り裂けんばかりの大声で同じ言葉を繰り返し叫びながら、異様な行動を取り続ける
額と両手は血だらけになっていた。
特に、中世的な貌なため、血まみれのその貌は凄絶だ。
しかし、中性的な貌の冒険者のこの行為は、それだけでは済まなかった。
それほどまで、これから起こる行為は異様なものだった。
身体をよろめきさせると、突然蹲った。
ぐえ、ぐぇと中性的な貌の冒険者が呻きながら嘔吐をはじめた
口から吐き出される嘔吐物は、ゴブリンの内臓ではなかった。
次々と口から吐き出されるのは、新鮮な魚類と分厚い牛肉の塊だ。
特に吐き出された新鮮な魚類はまだ活きているらしく、迷宮の床で飛び跳ねた。
その様な異様な光景を繰り返していたのかあちらこちらの床には、新鮮な魚類と牛肉の塊が落ちている。
そしてどういうわけか、ゴブリンの死骸が聊か少なく代わりに新鮮な魚類と牛肉の塊が多かった
生き残っている一匹のゴブリンは小刻みに鼻で息を繰り返し喘ぐ
「―――さて、次はお前だ
お前の肉も食わせろ」
中性的な貌の冒険者から発せられた声は、まるで真冬の湖を彷彿とさせる声だった。
ゴブリンが最後に耳にしたのは、この世のものとは思えない引き攣った様な笑い声だった。
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