chapter.3 秋人の想い~ETERNAL SNOW
もうあれこれ気にするのは止めにしよう。
余計なことを考えないよう、オレはひたすら勉強した。
修学旅行に文化祭、行事も思い切り楽しんでやった。
そのお陰か内申も上がり、当初の予定よりだいぶ偏差値の高い高校を受験し、見事合格。
そして、いろいろあった中学校生活も、残りわずかとなったある日──。
『都内には大雪注意報が出されており、夜遅くから
22時を過ぎ退屈しのぎのTVを消すと、居間はしいんと静まり返った。
あまりにも静か過ぎて様々な物音が気になってくるが、さっきまでどしゃ降りだった雨の音は聞こえてこない。
もう降ってきやがったのか?
外の様子が気にかかり、トイレのついでに玄関へ向かう。
それでも思い切って外へ出ると、しゃらしゃら音を立てながら、大粒の雪が降っている。
だがそれより門の前に、人影を見つけ驚いた。
誰だよ、こんな時間に。
雪女か? なんて発想がすぐに出てくんのは、この辺が有名な雪女の話の舞台だからだろう。
向こうもオレに気付いたようで、門を開け近付いてくる。
玄関灯の黄色っぽい光の下、
「こんばんは」
「アキっ! なんで?」
帽子とマフラーでいつもと感じは違うけど、そこにいるのは間違いなく
「これ、部屋片してたら出てきたから。ホントは、ポストに入れて帰るつもりだったけど」
ぶっきらぼうに突き付けられたレジ袋を、素直に受け取り中を覗くと、
「ああ、そういや貸してたっけ……」
それを思い出すと同時に、貸したときの記憶も甦ってきた。
「そうだ、オレも借りてたんだ。返さねーと」
「いいよ別に。美冬にあげる。
「は? たつ?」
何いってんだかわからずに戸惑うオレが
「引っ越すんだ、うち。父さんが新しく家建てたから」
「えっ、いつ?」
「
「ちょっ、待てよっ」
思わず呼び止めてしまったが、今更何をいえというんだ。
でもアキが引っ越して、もう会えなくなるんなら、最後にまた聞いてみようか。
前は無視されたけど、今なら答えてくれるかもしれない。
「オレ、オマエに何かした?」
「……してない」
「じゃあ、なんで無視すんだよっ。雪野センパイがいってた。アキがオレのこと友達だと思ってねーって」
「雪野っ? あの腐れ外道、余計なこといいやがってっ」
傘を持つ手を震わせ、端整な顔を
「友達だなんて思ってない。だって僕、美冬のことが好きだから」
「はぁ?」
嫌いじゃなくて、好き?
「いつからとかどうしてとか、そんなの覚えていないくらい、昔から美冬が好きだった。でもあの日、美冬に迫られたとき、そのままキスしそうになって、僕は自分が怖くなった。このままずっとそばにいたら、いつか誘惑に負け、とんでもないことを仕出かして、美冬を傷付けてしまうかもしれない。だから距離を置くことにしたんだ」
キスしそうにって、まさか……っ!
「──って、オマエ、カノジョいんだろ?」
「先輩は腐れ外……腐女子で、よくいえば僕の理解者だ。あの人、見た目だけはいいからスゴくモテるけど、そういうのいちいち面倒だから、付き合ってるフリをしろ、でないと美冬にバラすって
「マジで?」
あの人、そんな人だったなんて……。
「とにかく彼女はどうでもよくて、僕が好きなのは美冬だけだっ。好きで好きで
オレに向けられた、まっすぐな想い。
それが本心だってのはわかる。
わかるからこそ怖いと思った。
友達だと思ってたアキがそういう目でオレを見ていたことが、男からそういう対象にされるってことが、怖くて怖くて怖くて怖くて──。
「キモチワルイ」
アキから目を
ヒドイこといってる自覚はある。
でも、ダメなもんはダメなんだ。
傷付いてるだろうアキの顔を
「……こっちこそゴメン。それじゃあ、美冬。サヨナラ」
別れの言葉を残し、アキは
ブーツがびしゃっと水っぽい雪を
湿った足音が遠ざかり、静かに門が閉まっても、オレは凍り付いたようにしばらくその場を動けなかった。
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