第31話 ふさわしい友達

 こんなはずじゃなかった。

 ユウちゃんと出会って、部屋から出られないと知って、ずっとあきらめていた。

 一緒に出掛けられると知って、学校行って、お買い物して、念願が叶った。

 楽しくて、嬉しくて、最高の一日になるはずだった。

 ユウちゃんも同じ気持ちだった。

 なのに、この帰り道がこんなに暗く寂しいものになるなんて。

 ユウちゃんをこんなに傷つけることになるなんて。


 小さな子供と手をつなぐお母さんとすれ違った。

 子供は一生懸命にテレビのヒーローの話をし、お母さんは笑顔で聞いている。持っている手提げからは、ネギが頭を出していた。


「まきちゃんの友達なのに、私が幽霊だから、何もできない」


 やっと、ユウちゃんが声を出した。

 言いたいことは分かっている。幽霊であることに、引け目を感じているのだ。私が、そう思わせないように気遣ってあげるべきだった。


「そんなことないよ。私はすごく楽しいよ」


「そんなことあるよ。服も着れないし、プリクラだって一緒に撮れない。パンケーキのお店にだって入れないんだよ」


「仕方ないよ。それは……」


「嫌な奴に会ったって、まきちゃんをかばうことも守ることもできない」


「ユウちゃん……」


 そんな風に思ってくれていたとは知らなかった。

 一緒に居てくれるだけで、私は充分満足だし、楽しい。

 幽霊だから出来ないこともあるけど、そんなことは些細なことだ。

 この気持ちをどう伝えたらいいのか。


「私が幽霊じゃなかったら、もっとまきちゃんにふさわしい友達になれる。大好きなまきちゃんだから、それがとても悔しい。辛いよ」


 ふさわしい友達ってなに?

 悔しいなんて思わないで。辛いなんて、おかしいよ。

 今のままでいい。幽霊のユウちゃんでいいよ。


「違うよ。そんな風に考えないで。私はずっと友達なんていなかった。欲しいとも思わなかった。ユウちゃんと出会わなかったら、きっと、今でもそうだったと思う。いや、それも違う。今でもそうだ。ユウちゃん以外に友達なんていらない」


 上手く言えているだろうか?

 この気持ち、伝わるだろうか?


「だから、笑ってほしい。ユウちゃんが幽霊でも、私は全然、気にしないよ」


 お願い、伝わって。

 ユウちゃんのことが大好きなんだから。


「それは駄目だよ……」


 ああ、伝わらない。

 どうしてなの?


「まきちゃんは、とってもかわいいし、いい娘なんだから。もっと友達、たくさん作らなきゃ。私以外に友達いらないなんて言わないで」


 ユウちゃんが顔を上げた。

 伝わったの?


「まきちゃんの大事な友達になれるように、私、がんばる」


 ユウちゃんに、笑顔が戻った。

 伝わった。この気持ち、伝わったんだ。


「いやいや、がんばらなくていいから。もう、充分に大事な友達だから」

「ううん。がんばる」

「だから、がんばらなくてもいいって」


 良かった。私も笑えてる。

 ユウちゃんが笑ってくれると、私も楽しい。うれしい。

 いつかはいなくなる友達だけど、その日まで、ずっといっしょだよ。

 安心したら、お腹が空いた。


「早く、帰ろう」


 私の足取りは少し、軽くなっていた。

 ユウちゃんは、私にまとわりつくようにして笑った。

 それがとてもうれしかった。






 朝、起きてユウちゃんを見た。

 薄くなっている。はっきりとわかるのだ。

 昨日感じたことは、やはり気のせいではなかった。


「まきちゃん、おはよう」


 いつものユウちゃんだ。


「おはよう」


 どうしよう? 何が起きてるんだろう?

 私の方の問題だろうか? 神様の効力が切れかかっている?


「どうしたの? 難しい顔をして」

「ユウちゃんは何ともない? 体調が悪いとか?」


 言った後で、幽霊に体調とかあるのか? と思った。


「別に悪くないけど?」

「そうだよね……でも、身体が薄くなってる。透明に近くなっているよ」

「え? そうなの?」


 ユウちゃんに自覚はないようだ。

 やはり、私の見える能力の問題かもしれない。

 どうしよう?

 このまま、少しずつ消えていって、見えなくなってしまうのだろうか?

 嫌だ。そんなのは嫌だ。

 まだ、ユウちゃんのこと、何も知らない。ユウちゃんの記憶が戻ってない。

 例え、いつかは分かれなければならないとしても、今じゃない。

 どうしよう?

 どうしよう? どうしよう?


「まきちゃん、落ち着いて。たぶん、まだ大丈夫だから」


 ユウちゃんは冷静だった。


「どうして? なぜ、そう思うの?」

 

 分からない。

 ユウちゃんが自信があるように言う理由がわからない。


「どうしてかは分からないけど、大丈夫なのは分かる」


 そう言われても、不安はぬぐいされなかった。

 私を安心させようと、嘘を言っている?

 なぜなら、ユウちゃんの顔から焦りの表情が見えてしまったから。

 もう、あまり時間がないかもしれない。

 私がユウちゃんを認識できなくなる日が来てしまう。

 急がなければならない。


 真島くんと石倉くんに相談しなくては……。


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