第27話 おもちゃの指輪
嘘でしょ? なんでいないの?
「ユウちゃん……ユウちゃん、どこ?」
ベッドの布団をめくる。下をのぞく。
いない。
机の下、引き出し。
いない。
クローゼット、タンスの中。
いない。
いない。いない。いない。
どういうこと? 何があった?
もしかして、私が見えないだけ? 本当はいるの?
意識を集中させる……誰も見えない。聞こえない。
わからない。
なぜ、ユウちゃんがいないのか、わからない。
ダメだ。パニックになっている。
冷静になれ。冷静になれ。
考えろ。考えろ。考えろ。
部屋を見回す。朝と違っている感じがする。
何が違う?
芳香剤の匂いがする。掃除だ。お母さんが掃除をしてくれている。
本棚に違和感……指輪だ。ユウちゃんにあげたおもちゃの指輪がケースごと無くなっている。
そうだとしたら、なに?
まさか……そうなのか?
私は、急いでお母さんに電話をかけた。
私は走っていた。
途中で、自転車の真島くんが追い付き、乗せてくれる。
さっき別れたばかりなのに、また会うことになった。誰かの助けが欲しい。真島くんしか、頼れる人がいない。
「どういうことだ? ユウさんがゴミ処理場にいるって」
「冬美さんの言葉を思い出したの」
「姉貴の? どんな?」
「地縛霊について、冬美さんはこう言った。『その場所や物に執着し、離れられない』って」
「ああ、それが?」
真島くんの息が荒い。坂道での二人乗りがきついのだろう。
お願い。がんばって。
「ユウちゃんは、あの場所に執着しているわけじゃなかった」
「でも、今まで部屋から出られなかったんだろ?」
「部屋から出られないと思い込んでいただけ。本当は部屋にあった『物』に執着があり、その『物』から離れられなかった」
そう考えるとつじつまが合う。
私の部屋という場所に、私以外の人間の想いがあるとは思えなかった。
でも、物であるならあるかもしれない。
ユウちゃんの想いが詰まった物が、何かの巡りあわせで、私の部屋に来た。
だから、ユウちゃんが現れたのだ。
「……なるほど。その『物』がゴミ処理場にあるのか?」
「たぶん。お母さんが部屋を掃除してくれて、可燃ゴミを出したの。きっとその中に……」
「可燃ゴミ? まずいんじゃないか?」
そういうことだ。
回収された『物』と一緒に、ユウちゃんは連れて行かれた。
もし、すでに燃やされていたら、どうなるのだろうか?
考えたくはない。
今は少しでも早く、現場に行きたい。
「だから、急いでほしい」
「わかった。フルパワーで行く」
自転車のスピードが少し上がった。真島くんの息づかいが荒い。
火に包まれながら泣いている、ユウちゃんの姿が脳裏に浮かぶ。
私はそれを打ち消そうと、真島くんの身体にしがみついた。
「そんなこと言われても、私はただの警備だから」
職員はすでにいなく、施設の明かりも点いていない。
警備員が二名いるだけだという。
回収したゴミを勝手にあさらせていいものかどうか、躊躇していた。
「それに大量だよ。その中から、探し物なんて不可能。あきらめた方がいい」
「そんなことありません。絶対に、探し出します」
「彼女の……お母さんの形見なんです……なあ?」
真島くん?
「は、はい。そうなんです。どうしても探したくて……」
いやいや、こんな嘘でどうにかなる?
「わかった。そういうことなら、内緒で案内する。ただし、二人だけで探すんだぞ。俺たちは手伝えないからな」
どうにかなった。真島くん、ナイス。
案内された倉庫の明かりが点く。
これは思ったより大変だ。
うず高く積まれたゴミの山が、いくつもある。
「これ、全部、今日回収された可燃ゴミですか?」
「そう。だから言っただろ。あきらめなさい」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」
警備員が戻って、二人きりになった。
真島くんが「やるか」と言って、一つのゴミの山に向かう。
「……ちゃん」
ああ、やっぱりだ。
私の推理に間違いはなかった。
どこ? どこにいるの?
「まきちゃ~ん」
振り返る。
いた。
一つのゴミの山の手前で、こちらに向かって来ようと足をばたつかせている。
少し進み、大きく後退。それを繰り返す。
もう、会えないかと思った。怖かった。ああ、会えた。また、会えた。
いいよ、そこにいて。私が行くから。
歩を進めた。
走った。
飛び込んだ。
相変わらず、感触はなかった。
ユウちゃんさえ見つかれば、あとは簡単だった。
彼女がとらわれていた「物」は、すぐに見つかった。
思った通り、あのおもちゃの指輪だった。
なぜ、この指輪に執着があるのかという疑問は残る。
だが、とても重要なことが分かったのだ。
ユウちゃんは、もう外に出られる。指輪と一緒なら、どこへでも行けるのだ。
こんなにうれしいことはない。
さあ、どこに出かけようか?
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