第25話 デートに行こう

 霊仙を送るために、冬美さんが出て行った。

 真島くんと二人、部屋に戻る。

 疲れた。なんか疲れがどっと出た。

 真島くんが床に腰を下ろしたので、クッションを渡す。それを枕に、寝転がる。

 私も隣で、同じように寝転がった。

 ユウちゃんも疲れたように、うつ伏せで浮いている。

 夏休みの天気の良い午後だ。


「疲れたね」

「ああ……なんか動きたくないな」


 まったくだ。肉体的にも精神的にもエネルギー切れだ。

 しばらく、こうしていたい。

 クーラーの風が心地いい。昨日はあまり寝られなかったから、このまま寝てしまいたい。


「ユウさんは、本当に幽霊なのかな?」


 真島くんがつぶやくように言った。

 ユウちゃんもこちらを向く。


「え? 幽霊じゃないと思うの?」

「前から思ってたんだ。里山から聞くユウさんの印象と、俺の知識の中にある幽霊が結びつかない。幽霊って、もっと自分勝手でわがままなものだろ? こちらの都合に関係なく、自分の想いを優先させる」


 まあ、言いたいことは分からないでもない。

 記憶喪失の幽霊って、存在理由があるのかないのか。

 でも、他に該当する存在を思いつかない。


「幽霊じゃないなら、なんだろう? 女神?」

「もう、まきちゃんたら、いくら私がかわいいからって、女神は言いすぎでしょ」


 まあ、言い過ぎだな。

 どう見ても、ただの女子高生にしか見えない。


「まあ、ユウさん探しの対象は全国になるから、これからは足で稼ぐより、ネットを有効活用した方がいいだろ。情報収集に詳しい人間に頼んであるから、里山は少し休め。せっかくの高校最後の夏休みなんだからな」

「うん、わかった。ありがとう」


 本当に、真島くんは頼りになる。

 かっこよくて、人望もあって、おまけに優しいなんて、ずるいぞ。


「そういえばだけど、石倉とのデートどうなった?」


 あ、忘れてた。

 できれば、思い出したくなかった。


「まだ何も……今度、連絡してみる」

「そっか、まだその段階か……」

「ごめん。約束は守るから」

「いや、そうじゃなくて……」

「ん?」


 なんだ? 歯切れが悪いな。

 言いたいことがあるなら言えばいいのに。

 どうせ、私の初デートは、絵のモデルと抱き合わせで、似顔絵との等価交換なくらい、軽いものですから。


「その前に、俺とデートしてくれないか?」


 急に真島くんが起き上がったと思ったら、そう言われた。


「……へ?」


 私も驚いて、起き上がる。


「おおう、まきちゃん、来た~デートのお誘い来た~」


 ユウちゃんがはやし立てる。

 なになに? デートのお誘い? 真島くんが? 私と?

 なんで? どうして?


「あの時は、石倉の気持ちも分かるとか思っていたけど、後になって、俺より先に里山とデート? ふざけるな! なんて、気持ちになってしまったというか……その……」


 どういうこと? 意味がわからない。

 真島くんは何を言ってるの?


「要するに、真島くんが言いたいのは、まきちゃんが好きってことだよ」


 いやいや、ユウちゃんまでなに言ってるの?

 ああ、なにがなんだか、さっぱりわからない。


「行く! デート、真島くんと」


 よくわからないけど、言っちゃった。


「そうか。良かったあ~」


 喜びをかみしめるといった感じで、拳を握った。

 そうなの? 私とのデート、そんなにうれしいの?

 ユウちゃんが言うように、私のこと好きなの?

 ああ、もうどうでもいい。

 私のことが好きでも嫌いでも、私の初デートの相手は真島くんなのだから。

 もう、それだけでいい。





「どうしよう? どうしよう?」

「キャー、キャー。まきちゃんがデート。まきちゃんがデートだ」


 真島くんが帰った後も興奮が冷めやらず、というか更にヒートアップして二人ではしゃいだ。

 初デートが真島くんとだなんて、夢みたいだ。

 どこへ行く? どこへ連れていってくれるの?

 遊園地? 水族館? ああ、どこでもいい。真島くんとだったら、どこでも幸せだ。

 手とかつなぐのかな?

 人混みになって、真島くんが「はぐれるといけないから」と言って、手を差し出す。私は頬を赤らめながら、そっとつなぐ。

 人と肩がぶつかり、よろける私を真島くんががっちり支え、「大丈夫?」「ええ」なんて言いながら見つめ合う。

 やがて二人は、求め合うように引き寄せられ、唇を重ねる。

 なんてことになったら、どうしよう?

 ああ、妄想が止まらない。


「服とかどうしよう? 地味なのしかない」

「夏だから、大胆な感じにしようよ」


 ネットで服を見ながら、相談する。

 ユウちゃんはタンクトップがかわいいと言い、私は袖の長いワンピースを提案する。じゃあ間をとって、ノースリーブで何かないかと探す。

 ミニスカートがいいと言い、夏用デニムパンツを提案し、それじゃあ、ショートパンツでと探してみる。

 ブーツがどう、パンプスがそう、帽子がどう、リボンがこう。

 ああ、楽しい。

 ユウちゃんとも買い物デートしたい。

 でも、こうやってネットショップごっこをするのでも充分だ。

 ユウちゃんは、ここを出られないのだから。


 

 


 

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