第23話 見つからない

 冬美さんの都合がつかず、私たちは電車を乗り継ぎ、そこそこの距離を歩き、ある高校の前まで来ていた。

 門のところに「関係者以外立入禁止」の札がある。

 日曜日だといっても、やはり多少の生徒は登校しているようである。

 中を覗く。

 生徒はいるが、運動部員しか見えない。制服じゃないと、確認できない。

 あ、なんだ男子だ。


「なんか怪しくない? 俺たち」

「そうだね。面倒くさいから、中入ろうか?」

「ええ、入るの?」


 一応、怪しまれないように制服を着てきた。

 生徒を捕まえて、聞き込みをするつもりだったが、もう、職員室に乗り込んで、教師に聞いたほうが早いし、安全だ。

 日曜日でも、誰かいるだろう。


「行くよ、職員室へ」


 そうと決まれば、堂々と門に入る。

 こそこそすれば、余計に怪しまれるというものだ。


「お、おう……里山、すげえな」

「なにが?」


 来客用のスリッパを見つけ、勝手に上がる。


「職員室はどこかな? あった」


 ドアを開けると、若い女の先生がいた。見回しても、この先生しかいないようだ。

 これは運がいいかもしれない。






 めっちゃ怒られた。

 他校の生徒が訪問するときは、なんらかの手続きが必要らしい。

 長々と保護者がどうとかセキュリティがどうとかと続く。

 全然、運がよくなかった。真島くん、ごめん。


「それで? どんな用なの?」


 やっと、本題に入れる。

 

「一年前、こちらの生徒さんで亡くなった女子生徒さんは、いませんか?」

「亡くなった……いいえ、いません」


 嘘をついているようには見えない。

 スマホを取り出し、ユウちゃんの似顔絵画像を見せる。


「こちらに、この生徒さんはいましたか? 亡くなっている人で」

「生徒のプライバシーになることはお教えできません」

「いたかいないかだけでも、お願いします」

「私の知るかぎりでは、いないと思うけど……」


 その時、二人の女子生徒が入ってきた。制服だ。

 やはり、ユウちゃんと同じ制服のように見える。

 女教師は、その二人を呼び止め、聞いてくれた。三年生だというこの生徒たちも、ユウちゃんのことは知らないと言う。

 ユウちゃんくらい明るくてかわいければ、学校の人気者となるはずだ。

 教師一人と、生徒二人にしか聞いてないが、ここではないと感じる。


 解放され、出ていくときにも、生徒数人に声を掛けたが、ユウちゃんを知る人はいなかった。

 真島くんと相談し、この高校ではないという結論になった。


「元気出せよ。まだ、これからだ」

「真島くん、ごめんね。怒られちゃって」

「平気平気。これくらいどうってことない」


 県内ならば、あと一校。

 今度は当たりでありますように。





 結論から言えば、もう一校も違った。

 ユウちゃんらしき人を誰も知らない。

 県内でないとすると、もう少し範囲を広げなければならない。




 夏休みに入り、真島くんの呼びかけで協力してくれる人も数人あらわれた。

 小林くんも石倉くんも入っている。

 情報を集める人、学校巡りをしてくれる人、知り合いに頼む人……。

 名目は亡くなったかもしれない私の友達探し。

 なのに、たくさんの人が協力してくれた。

 真島くんの人徳がなければ、こうはいかなかっただろう。

 みんなに感謝。

 私自身も、西は大阪、東は東京と手当たり次第に、動き回った。

 だけど、該当者なしという情報だけが増えていき、高校名が少しずつ消えていく。

 見つからない。

 どういうわけか、見つけることが出来なかった。

 

 そして、七月三十日を迎えてしまった。

 何の手掛かりもないままに。

 ダメだ。

 もう少し延期してもらおう。

 このまま、あきらめたくない。


「まきちゃん、もういいよ。無理だよ」


 ユウちゃんは笑っていた。


「ダメだよ。ユウちゃんの本当の名前も知らないなんて嫌だよ。冬美さんに頼んで、今日はキャンセルしてもらう。大丈夫。まだまだ悪霊なんかにならないから」

「約束したでしょ。お祓いするって」


 そんな約束なんて関係ない。

 ユウちゃんは現世に未練があるんだ。やり残したことがあるんだ。

 今は忘れてしまったけど、きっと思い出す時が来るから。

 だから……。


「もう少しだけ、ここに居てよ」

「まきちゃん、ありがとう。短い間だったけど、すごく楽しかったよ」

「やめて。別れの挨拶みたいなことしないで」

「さようなら、まきちゃん」

「……」


 ああ、ユウちゃん、本当に行ってしまうの?

 せっかく出来た友達だったのに、もうお別れなの?


 玄関のチャイムが鳴った。

 心臓が激しく脈打つ。

 来てしまった。

 冬美さんが連れて来る霊能者の人が……。

 

 

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