第22話 アルバム

 高校の制服から学校を特定しようという試みは、暗礁に乗り上げていた。

 ネットサイトの情報が古い。そして、少ない。

 県内だけでも数校はそれらしきものがある。

 どうやって調べたかは謎だが、数日の間の真島くんからの情報だ。

 まだ増える可能性もある。

 範囲を全国に拡大すれば、その数は膨大だ。

 

 今日は私の部屋で作戦会議だ。

 真島くんが来ている。

 ユウちゃんがここを離れられないから、どうしてもこの部屋でとなるわけだが、これで真島くんの訪問回数は三回目。

 短い間に、三回も。

 なんか恋人同士みたいだな、と思った。


「冬服だったら、分かりやすいんだがな。ユウさんは冬場も夏服のままか?」


 そういえば、どうなんだろう?

 ユウちゃんを見る。


「私、幽霊だよ。寒くなったからと言って、着重ねるわけないじゃん」


 ユウちゃんが真島くんを、馬鹿にしたような顔で見る。

 まあ、そうか。

 幽霊に暑さ、寒さは関係ないだろう。

 寒い時期に亡くなっていたら、冬服だったのかな? 冬服なら、校章がどこかに入っていて、学校を特定するのは簡単だったかもしれない。


「このままだって」

「そうだよな……ああ、忘れてた。姉貴から伝言。七月三十日、お祓いの日だそうだ。依頼した霊能力者も夏場は忙しいらしく、かといってあまり遅くなるのも危険だから、調整すると、その日くらいしかないらしい。どうだ? いいか?」


 夏休みに入れば、こっちも動きやすい。

 もう少し余裕が欲しいところではあるが、仕方ないだろう。

 ユウちゃんを見る。

 頷いて、了承した。


「いいよ。お願いします」

「よし、伝える。俺も全力で協力する」

「真島くん、勉強はいいの? 夏休みに入っても、補習とか模擬試験とか忙しいよ」

「里山こそ大丈夫か? 俺は平気だ。補習も出ない。勉強は夜やって、昼間は動く」

「動く?」

「今のうちに調べることは全部やって、日曜日と夏休み期間は高校巡り。この作戦でいこうと思う」

「じゃあ、私と考えること、いっしょだ」


 そうか。うれしい。

 勉強は確かに大事だし、この時期に成績を落としたくはない。

 補習に出るという環境が勉強を促すことも分かるが、やる気になれば一人でも勉強はできる。

 それよりも明るいうちは、足で情報を稼ぐ方法を取った方がいい。

 真島くんも同じ考えだったことがうれしい。


「まきちゃん、写真はどうなったの? 早く見たいよ」


 そうだった。まだあの時の写真を見ていない。

 あまり急かすのもよくないかと、黙っていたが、もう出来上がっているのではないか?


「小林くんの写真、まだできないの?」

「ああ、あれ? 全部見たけど、ユウさん写ってなかった」

「そうなんだ」


 まあ、あまり期待もしていなかったが、残念だ。

 恥ずかしい想いもしたけど、真島くんも小林くんも頑張って協力してくれたし、仕方ない。


「……そう、そう」

「……ん? どうしたの? 見せてくれないの?」

「ああ、写真? 見たい?」

「一応、確認したいし、ユウちゃんも見たがってる」

「そ、そうか……」


 ん? どうした、真島くん?

 なんか変だよ。焦ってるみたいだけど?

 真島くんがカバンの中から、何かを取り出す。分厚い。百科事典?


「え? もしかして、アルバム? なんでアルバムにしてるの?」

「いや~小林がせっかくだからって進めるものだから、つい買ってしまった」


 真島くんが頭をかく。

 いや、いや、何してるの? なんで長期保存しようとしてるの?

 アルバムを奪い取り、中身を開く。

 お腹めっちゃ出てる。

 太ももむき出し。

 恥ずかしい。恥ずかしすぎる。


「きゃあ、きゃあ。まきちゃんかわいい。小林くんも真島くんもグッジョブ!」


 ユウちゃんが覗き込み、声を上げる。

 なに言ってるの? 

 真島くんもユウちゃんも、目的理解してる?


「写ってないんだから、もうこの写真はいらないでしょ? 捨てるんだよね」

「馬鹿、何言ってるんだ。もったいない」


 もったいない? もったいないってなんだ?

 私のコスプレ写真なんか、取っておいてどうする?

 ユウちゃん、写ってないんだよ。


「真島くん? 何言ってるの?」

「これは俺が記念にもらう……ダメか?」


 記念ってなに? なんの記念?


「ダメダメダメ。絶対にダメ。私の黒歴史として残っちゃうでしょ」


 アルバムを抱えて、そっぽを向く。

 冗談じゃない。言っている意味がわからない。


「里山……これから大変だぞ。写真がない以上、手がかりは石倉の絵だけだ。今日はあっちの学校、明日はこっちの学校。勉強もしなければいけないし、時間がない。それを手伝ってやろうという俺に、ささやかな褒美があってもいいんじゃないか?」


 うう、そんな言い方ずるいよ。 

 そんなに欲しいの? 私の写真が?


「真島くんって、コスプレ好きなの? 変態?」

「ば、馬鹿いえ! 俺は変態じゃない。男としては普通だ。小林が『焼き増したら、売れますよ』と言うのを俺が止めたくらいだ。他の奴らに見せるのは、もったいないからな」


 焼き増しして売る? こんな写真、売れるわけないでしょ。

 小林くんも何考えてるんだか。


「いいんじゃないの? まきちゃんのこと好きなんだね、真島くんは」


 え? ユウちゃん? 何言い出すの?


「好きな娘の写真が欲しいというのは、男の子としては健全だよ。かわいく撮れてるし、持っててもらったら?」


 真島くんが私を好き?

 ない、ない、ない。

 そんなことあるわけない。

 真島くんはかっこよくてクラスの人気者。私は、地味で暗くて影が薄い。

 手伝ってくれるのだって、優しさからだ。

 私を好きだからじゃない。そこまでうぬぼれていない。


「わかった。持ってていいよ。でも、人に見せないでね。特に男子たちには」


 ああ、私の黒歴史を真島くんが持つことになるなんて。

 結局、また私の主張は通らないのね。


「よかった、没収されなくて。大事にする」


 うわあ、「大事にする」って言われた。へんな妄想しそう。






 私たちはパソコンを使って、真島くん情報の高校を片っ端から検索していく。

 私は実物を見ながら、真島くんは似顔絵を見ながらだ。

 県内では二校、柄やデザインがほぼ同じの高校があった。

 早速、日曜日に行ってみようということに。

 学校が休みでも、部活などの用事で登校してくる人がいるだろうと言う判断だ。

 冬美さんに車を出してもらえるか聞いてみると、真島くんが言ってくれた。

 

 

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