第21話 絵の報酬

 石倉くんは、真面目でおとなしい感じの男の子だ。

 しかし、女子の噂ではあまりいい印象はない。

 

「石倉はすごく、絵が上手い。ユウさんの絵を描いてもらおうと思う」

「ユウちゃんの? 見えないのに?」

「テレビで見たことあるんだ。言葉だけで、似顔絵を描くやつ。里山が伝えて、石倉が描く」


 そんなことできるだろうか?

 でも、写真がうまくいくとは限らない。もし、そんなことが出来るなら、それは願ってもないことだ。

 今度は、恥ずかしいおもいはしなくて済みそうだし、やってみてもいいかも。


「おもしろそう。描いてもらいたい」


 ユウちゃんは乗り気だ。なら、問題ないか……。


「わかった。お願いする」

「了解」


 真島くんが電話をする。


 ほどなくして、石倉くんが来た。

 下を向いて、もじもじといった感じ。


「こんばんは、里山です。今日はお願いします」


 石倉くんは下を向いてブツブツと言う。

 え? 聞こえないんだけど?


「石倉は恥ずかしがり屋だから……もう、話は分かってるから、早速やろう」

「そうなの? ああ、どうぞ上がってください」


 私の部屋、ついこの間まで誰も来なかったのに、なんか続けてお客さんが来てる。

 石倉くんは、私の部屋に入ると、落ち着かなくキョロキョロする。

 なんか挙動不審。

 ユウちゃんは、物珍しそうに彼を観察しだした。


「ん~、借りてきた室内犬みたいだね。かわいい」


 石倉くんまでかわいいと言うのか? ユウちゃんのかわいいの基準ってなに?

 

「じゃあ、さっそく……え? なに? ああ、それくらいなら……まじ? いや、それは……まあ、聞いてみるけど……」


 なにやら、真島くんと石倉くんが密談をはじめた。

 嫌な予感。


「どうしたの?」

「実は石倉は、報酬をもらって絵を描いてる」

「そうなの?」

「よく俺たちの妄想とか願望とかを絵にして、お金を稼いでるんだ」


 なるほど、自分の特技で稼いでいるわけね。


「うんわかった。いくらなの?」

「いや、今回はお金はいらないから、里山にお願いがあるらしい」

「お願い?」


 まさか、予感的中じゃないの?


「今度、絵のモデルをやって欲しいそうだ」


 なんだ、そんなことか。

 まあ、恥ずかしいけど、ユウちゃんのためだし、それくらいなら……。

 いや、ちょっと待て。

 絵のモデルって、まさか……。


「まさか、エッチな絵のモデルじゃないでしょうね」


 石倉くんを見る。

 ハッとした顔を見せた後、下を向き、両手で否定の型をした。

 

「違います。違います。展覧会に出す普通の絵です」


 なんだ、石倉くん、普通に喋れるじゃない。


「まきちゃん、なに想像してたの? エッチな絵ってどういうの?」


 もう、ユウちゃん、そんなににやつきながら、いじってこないで。


「もう一つ、あるそうだ。これは、ちょっと……」

「まだあるの? なに?」

「里山とデートしたいそうだ」

「で、デート?」


 は? 何言い出すの? 

 私と? なんで?


「いや、デートとかそういうことじゃなく、二人で遊んだり、食事したりするだけです」


 いや、石倉くん? それがデートだよね?

 なんで、私とそういうことしたいの? そういうのは好きな娘としなよ。


「なんでまた、私なんかと?」

「そういうのしたことないし、もうすぐ、受験勉強しなければいけないわけだし……高校生活のいい思い出として、お願いします」


 いやいや、私だって生まれてから今まで、デートの経験ないですよ。

 だいたい、なんで真島くんから言わせるの?

 ショックだよ。


「デートっていうのは、ちょっと……」

「じゃあ、上手く描けたら、ご褒美にということでどうでしょう?」


 石倉くん、なんで敬語? なんで、そんなに食い下がる? キャラ変わってるよ。


「いいんじゃないか? デートくらい。難しいことを頼むわけだし、そのくらいの報酬は男として理解できる」


 真島くん? なんで理解できちゃうの?

 デートだったら、真島くんとしたいのに。


「いいじゃん、まきちゃん、こんなにしたがってるんだから、デートくらい」


 ユウちゃんまで? だって、デートだよ。初めてなんだよ。

 初デートは、好きな男の子としたいよ。


「いいよな? 里山」

「お願いします。里山さん」

「行っちゃえ、行っちゃえ、まきちゃん」


 ああ、なんで私の味方は、いないの?


「わかりました……そっくりに描けたら、そのお礼にデートします」






 どうしよう?

 すごく似てきた。

 修正しやすいように、鉛筆画。描いては消し、描いては消す。

 私の言葉だけで、どんどん似てくる。

 不思議だ。すごく、上手い。真島くんが褒めるだけのことはある。


「すごい。綺麗に描けてる。まきちゃん、これはデート決定だね」


 ユウちゃんも満足そうだ。

 難癖つけて、ごまかしてやろうとかと企んでいたが、これだけ上手いとそれもはばかられる。


「へえ、ユウさんって本当にかわいいんだな」

「ユウさんという方なんですね? 里山さんの友達なんでしょ?」

「え、ええ……」」


 顔の似顔絵と、全体図。

 両方ともユウちゃん、そのまま。

 色鉛筆でスカートと、ネクタイの色付けをして、完成した。

 

「どうですか? 合格ですか?」

「……はい」


 初デートが決まってしまった。

 もう、どうにでもなれ。

 

 だけど、これは貴重なものが手に入った。

 写真が駄目だった場合、この絵がユウちゃんを探すかなめになるかもしれない。

 ここは、前向きに。前向きに。

 


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