第20話 押しに弱い

 なにこれ? お腹めっちゃ出てる。スカート丈短すぎる。

 水着よりまし? ほぼ水着……でも、水着より恥ずかしい。

 チアガールって、なんでこんなに身体のラインむき出しなの?

 ああ、胸が小さいよ。似合わないよ。


「里山、準備できたか?」

「うん……いや、その……できた」


 ああ、もう、どうにでもなれ。

 階段をのぼり、部屋に入る。


「おお!」


 真島くん、そんな舐めまわすように見ないで。

 足に視線が戻った。太もも、めっちゃ見られてる。

 ああ、恥ずかしくて死んでしまう。


「きゃ~! まきちゃん、かわいい。すごく似合ってる」


 ユウちゃんが大はしゃぎで駆け寄る。

 嘘だ。嘘だ。嘘だ。

 お腹も細くないし、足だって綺麗じゃない。

 似合ってるわけない。


「髪型も少しいじりますか? ここの髪、こう垂らした方が……どうです? 真島先輩」

「おお!」


 いや、真島くん? 「おお!」しか言ってないよ。他に、なんか言って!


「すこしメイクもしましょう。ナチュラルで活発な感じがいいかな……」


 小林くんがカバンからなにやら取り出す。

 メイク道具? なぜ? なぜ、そんなものまで持ってるの?

 小林くんって高校二年生だよね? 男子だよね? 変態なの?



 ボンボンを持たされ、ポーズをとらされた。

 私は、自分の部屋で何をしているのだ? 

 ああ、早くして。はやく終わってくれ。


「じゃあ、ポラロイドでまずは試し撮りしましょうか?」


 よし。ポラロイドは試してみたかった。これで、写れば問題なし。終了だ。


「いきますよ」


 小林くんがカメラを構える。一応、ポーズをとってみる。

 あれ? 違う。


「ちょっと、待って」

「ん? どうしました?」


 ユウちゃん? 何やってるの?

 そんなニコニコ顔で、なんでカメラ側に立ってるの?

 あんたが写らなくてどうする?


「ユウちゃん、こっち」

「ユウちゃん?」


 小林くんは疑問顔。その横で、ユウちゃんも小首を傾げて、「どうしたの?」的な表情。

 いやいや、なんでそんな顔? 

 言ったよね。これはユウちゃんを撮るための撮影だって、言ったよね。


「ああ、そうだ。小林、ちょっと待て。ユウさん……ここにいたらだめだよ……里山のとなりに行かないと……写るんだよ……」

「真島先輩までなんですか? 誰かほかにいるんですか?」

「気にするな。独り言だ」


 真島くんは見えないから仕方ないけど、独り言とは、きびしい言い訳だ。

 ユウちゃんもやっと気づいたみたい。

 頭を叩く仕草をし、てぇへぺろ。いや、かわいいけど……。


「まきちゃん、ごめん。忘れてた」

「忘れてたじゃないよ。死ぬほど恥ずかしいんだから」

「恥ずかしがることないよ。かわいいよ」

「……もう、そういうのいいから」


 改めてポーズをとる。 

 左膝を曲げ、左手を上げる。重心を左側に寄せることで、右側にスペースを作る。

 ユウちゃんもそれが分かったのか、後ろに回り、そのスペースから顔を出し、両手ピース。

 この構図なら、顔はもちろん、制服までしっかり写るはずだ。


「小林くん、いいよ。撮って」

「もう少し胸を張って……いいですよ。笑ってください……硬いです。もっと、楽しそうに……」


 もう、いいから、早く撮って。


「はい、チーズ」


 パシャリ。


 やっと、一枚。疲れる……これで終わりにしたい。

 出てきた写真を受け取る。

 ポラロイド写真を見るのは初めてだが、最初は何も写ってなくて、徐々に画像が現れるという知識はある。

 じれったい。早く、浮き出てこい。

 真島くんもそばに来て、いっしょに写真を見つめる。

 私の姿が少しづつ現れ、鮮明になっていく。

 ぼんやりした背景が少しづつ形を成す。

 机もわかる……本棚も……本の題名まで……。


「ダメだ。写ってない……」


 真島くんが声を出した。

 そうだ。もう、はっきりと出来上がったと分かる。

 でも、ユウちゃんはいない。


「失敗。無理だった……」

「そうですね。里山先輩の表情がいまひとつですね」


 小林くんがいつの間にか、私たちの間の入っていた。

 びっくりした。

 ああ、そういうことね。小林くんにとっては、私の写真だものね。


「そんなことないぞ、小林。この調子で、いろいろなカメラで撮ってくれ。モノクロとか、光の具合とかも変えてやってみよう」


 まあ、仕方ない。

 ここは、小林くんと真島くんに任せよう。


 それから、ああでもない、こうでもないと写真を撮られまくった。

 チアガールが終わったら、次はレースクイーンでと言われる。

 それは意味ないでしょと抗議すると、小林くんはフィルムが残ってるからと主張し、真島くんは「せっかくだから」という訳のわからない理由を言い、ユウちゃんはとにかくはしゃぎ回って「やろう、やろう」と叫ぶ。

 結局、レースクイーンとフリフリアイドルもやらさられた。

 私は押しに弱いのだと初めて知った。

 疲れた。もう、めっちゃ疲れた。


 小林くんは「大至急で現像しますから」と言い置き、ニコニコ顔で帰っていった。


「里山、お疲れのところ悪いが、実はもう一人、待たせてある。呼んでいいか?」

 

 ちょっと真島くん、今度は何? まだ、なんかするの?

 もう夜の八時だよ。

 ユウちゃんの制服、早く調べたいのに。


「誰?」

「美術部の石倉。知ってるか? となりのクラスの」


 知ってる。でも、顔を知っているだけで、話したことはない。

 マンガを描くのが得意で、少年雑誌にも投稿しているという噂は聞いたことがある。

 それに……。


「ちょっとエッチな絵を描く人でしょ? むっつりスケベだと女子たちが言っていた……まじ? 石倉くん、ここに呼ぶの? なんで?」


 真島くん、あなたは今度はなにをしようというの?



 

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