第19話 チアガール

 後で連絡すると言い置き、真島くんは帰っていった。

 協力するというのはありがたいことだが、何をどうするかといった話もしていない。

 思いついたことがあるのか、急いでいる様子だった。


 それはともかく、私は私で何かしなければならない。

 一番の手がかりは、制服。うちの高校もそうだが、公立高校の制服は総じて地味だ。

 ユウちゃんの着ている制服は、おそらく私立高校のものだろう。

 県内の私立高校の制服を調べてみる。

 スマホで画像を調べたら、簡単に学校別の制服が出た。

 赤いチェックのスカートとネクタイ……ない。県内の私立ではないのか?

 ともかく、帰ろう。

 実物を見ながら、パソコンで検索した方がいい。






「まきちゃん、何調べてるの?」


 ユウちゃんが覗き込む。


「ユウちゃんの通っていた高校を調べてる……ないなあ。やっぱり、県内の私立高校じゃない」


 普通に考えれば、別の地域の高校だろうとなるが、それはそれでおかしいとも思う。

 まさか、中学生? こんな発育のいい中学生なんかいる?

 いや、制服に見えて、女子高生コスプレ衣装なんてことは? そうなったら、お手上げだ。

 ユウちゃんを見る。

 迷っててもしょうがない。

 とにかく、全国の高校生の制服を片っ端から調べよう。


 スマホから着信の音楽が流れた。真島くんだった。

 今から、お客を連れて来ると言う。よくわからないが、真島くんなりの考えがあるみたいだったので、了承する。

 ほどなくして、真島くんが来た。背の小さいメガネの男の子を連れて。

 知らない人だ。すごい量の荷物を抱えている。


「被写体は里山先輩でしたか……」


 被写体?

 里山先輩って……下級生かな? 私のこと知ってる?


「まあ、そうだな。里山が被写体だ」


 真島くん? 何言ってるの? 被写体ってなに?


「急にカメラ道具一式持ってこいなんて言うから、何事かと思いましたよ。里山先輩の写真を撮ればいいんですか? 場所はどこで? まだ、日が暮れてないから、外でやります?」

「いや、里山の部屋で撮る。そうじゃないと、意味がない」

「なら、ライトが足らないかな? レフ板だけだとな」

「よくわからんが、綺麗に撮らなくてもいいぞ。なるべく、いろいろなカメラで、いろいろな撮影方法で撮ってほしいのだけど」

「……綺麗に撮らなくてもいい? どういうことです?」

「あまり深く考えるな」


 えっと……何の話?


「真島くん? どなた?」

「ああ、ごめん。紹介する。二年生の小林つとむ。カメラ屋の息子で、アイドルおたく」


 ああ、ユウちゃんの写真を撮ろうと呼んでくれたのね。

 カメラ屋の息子? 駅前の?

 知らなかった。駅前のカメラ屋の息子が同じ高校だったなんて。


「はじめまして。小林です。真島先輩と同じサッカー部の後輩です」

「はじめまして、里山まきです……私のこと知ってるんですか?」

「そりゃあ、知ってますよ。校内の美人はチェック済みです。最近、髪型変えてランク急上昇です」

「……はあ?」


 なにを言っているの?

 意味がわからないんですけど?

 美人? ランク急上昇?


「里山、ちょっと」


 真島くんが土間を上がり、小林くんに背を向け、小声で話しかける。


「説明するの面倒なんで、里山の写真を撮るめいもくでユウさんを撮ろうと思う。どうだろう?」


 被写体というのはそういうことか。

 なるほど、いい考えだ。

 写真についてはどういう方法があるか、正直、困っていた。専門家に任せるのがいい。


「了解。私がモデルのフリをすればいいんだね。ありがとう、いい考えだと思う」

「よし!」


 真島くんがガッツポーズをとる。

 そんなにうれしいの? 

 そんなにユウちゃんの写真が見たいの?

 なんか、複雑だ。


「とりあえず、あがって。小林くん」

「ありがとうございます」


 それにしても、すごい荷物。

 これは期待できるかも。





「まきちゃん、誰? 何が始まるの?」


 小声でユウちゃんに説明した。

 私の写真を撮るときに、こっそり写りこむように指示する。

 ちゃんと理解したようだ。

 友達同士でいたずらを仕掛けているような気分で、少し楽しい。


「里山先輩……夏服、これだけですか? 全部、おばさん臭いですね」


 私のクローゼットを物色していた小林くんが言う。

 おばさん臭い? 

 なんてこと言う後輩だ。


「そうなの。まきちゃんの服のセンス、ダメダメなの」


 ユウちゃんまで、何を言う?


「しょうがない。じゃあ、とりあえず、これ着てください。それから、これ。そのあと、これ」


 小林くんが荷物の中から、なにやら衣装らしきものを取り出す。

 なにこれ? チアガール? アイドル? これは……レースクイーン?

 なんでこんなの持ってるの?


「無理、無理、無理。絶対、嫌だ」

「かわいい。まきちゃん、着てみて。絶対、かわいい」


 ユウちゃんは黙ってて。

 こんなの似合うわけない。着れない。

 真島くんに見せられない。


「真島先輩、確かに里山先輩はかわいいですよ。でも、せっかくこれだけの器材をそろえたんですから、これくらいの旨味は欲しいですよね? 男なら、わかってくれますよね?」


 小林くん、ずるくないか? 

 私に頼まず、真島くんを味方にしようなんて。


「おお、そうだな……里山、せっかくだから、着てみてくれ」


 ちょっと、真島くん?

 顔、真っ赤にしてなに言ってるの?

 目的を見失ってないか?

 私の衣装なんか、どうでもいいでしょうが。

 ユウちゃんが写るかどうかでしょ。


「絶対、嫌だ」


 男同士で結託して、馬鹿にしてるに決まってる。

 真島くんが小林くんを背に、また小声で話す。

 説得しようたって、そうはいかない。


「里山、そんなに嫌がることじゃないだろ。水着に比べればたいした露出でもないし、エロくない」

「なんで小林くんは、あんな衣装用意してるの? 不純な気持ち以外に考えられないでしょ」

「あいつはアイドルおたくだから、たまたま持ってただけだよ」

「たまたま女性用の衣装なんて、持ってるわけないでしょ」

「ユウさんのためだろ?」

「……」


 うう……それを言われると。

 恥ずかしがってる場合じゃないって事か。

 なんか騙された気がする。


「それに……俺も見たいし……」


 ちょっと、なに言ってるの?

 顔が熱くなるでしょうが。


「小林、OKだ。衣装は着替えてもらうから、撮影準備に取り掛かろう」


 結局、説得されてしまった。

 私は意志が弱い。


「やったあ、まきちゃん、チアガールだ」


 ユウちゃんまで、なんで私にコスプレさせたいの?

 私なんか、絶対、かわいくならないのに。


 

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