第17話 危険な存在
「幽霊が元人間であるのに対し、妖怪や悪魔はそもそも人ではない。大抵は何らかの特殊能力があり、人をだましたり、怖がらせたりする」
いやいや、ユウちゃんに特殊能力なんてないから。
「まきちゃん、怖い。私、元人間じゃないかも」
だから、ユウちゃんが怖がってどうする?
「特殊能力ってなんだ?」
「例えば、天狗は神通力の持ち主だし、河童は泳ぎが得意。座敷わらしは人を幸福にする能力があるし、雪女は人を凍らせることができる」
「なるほど……どうだ? 里山、ユウさんはなんかできるか?」
真島くん、お姉さんの話に乗っかるのね。
「ユウちゃんは、そんな能力ないよ。物も触れないし、だから動かせもしない。この部屋を出られないから、泳げるかどうかもわからない。幸福になったかといえば、それは少しはあったかもしれないけど、能力的なことではないと思う。見ての通り、凍らされてもいない」
なんで真面目に答えてるんだ? ユウちゃんは幽霊だから。
「だまされたこととかは?」
「ないです」
「見えるようになって、不幸なことがあったとか?」
「いいえ」
「怖がらされたとかは?」
冬美さん、なんでそんなに生き生きと話せるの?
私が不幸なほうがいいの?
「ないです。というか、ユウちゃんが、いま、怖がってます」
ユウちゃんは、先ほどから私の背中に隠れるようにしている。
冬美さんの迫力にビビっている感じだ。
「そうなの? じゃあ、やっぱり、幽霊か……」
なぜ、がっかりしている?
「ユウさんは、幽霊で決まりなのか?」
「そうだね。さっき、ユウさんはこの部屋から出られないみたいなこと言ってたけど、そうなの?」
「本人がそうだと言ってました」
「じゃあ、地縛霊に決まりだね」
「地縛霊?」
「地縛霊には二つのタイプがあるとされる。一つは自分の死を受け入れられずに、死んだ場所から離れられないもの。もう一つは、その場所やモノに執着するあまり、死んでからもとらわれてしまった霊のこと。幽霊としては、いちばんメジャーなタイプ」
冬美さん、なんか投げやりになってます。
幽霊はあまり詳しくないようなこと言っていたけど、充分知っているみたい。
最初はあんなに怖がってたのに、今は幽霊で残念そうだ。
「ユウちゃんは、生きていたころの記憶がないみたいなんです。だから、なぜ幽霊になったのか、分からない。名前も覚えてなくて、私が付けました」
「そうなの? 心当たりもないの?」
「それについては調べてみたんですけど、この家が建てられてから死んだ人はいませんでした。だから、死を受け入れられるも何も該当する人はいません。大昔なら、この場所で死んだ人もいたでしょうけど、ユウちゃんの姿は現代の高校生だから違うと思います」
「じゃあ、この部屋に特別な想いがある人は?」
「それこそ、いません。ずっと私の部屋だし、友達を呼んだこともありません。記憶にないほど小さい頃ならわかりませんが……」
冬美さんはなにか考え込んでいるようだった。
ユウちゃんがその地縛霊だとしても、なぜここにいるのか分からない。
私自身もよくよく考えたことだ。
「じゃあ、地縛霊ではないのか?」
「地縛霊じゃないとまずいのか?」
「そうじゃないけど、幽霊というのは何かしら現世に想いがあるものだから、どこの誰かわからないとその想いもわからない。成仏させてあげるのが一番いいのだけれど、その想いが分からなければどうしようもない」
ユウちゃんの想い……それはなんだろう。
もし、そういうものがあるのなら、かなえてあげたい。
「それで? ほっておいて大丈夫なのか? 里山が危険な目に合うことはないのか?」
「危険だね」
「え?」
危険? ユウちゃんが危険な存在? そんな馬鹿な。
「今すぐどうということはない。ユウさんがまきちゃんに危害を加えようとしてないのもわかる。でも、現世に遺恨を残したまま死んだ霊たちが、人間と会話できるユウさんをそのままにしておくことはないだろう。とり憑いて、自分の恨みをはらそうと集まったら、いろいろな人の悪意の塊、悪霊となる。そうなったら、もうユウさんの意志とは関係なく、まきちゃんに危害を加えるだろう」
冬美さんの表情は真剣だった。
でも、そんなのは信じられない。ユウちゃんが悪霊? 私に危害を加える?
そんなわけがない。
ユウちゃんはかわいくて、やさしい。
明るくて、楽しくて、恋愛マスターで、おしゃれ番長なのだ。
私の大事な友達。
「それは駄目だ。なんとかならないのか?」
「そうなる前に、祓ってしまうのがいい。霊能者かだれか心当たりを探してみるから……」
「やめてください」
「でも、このままというわけには……」
「やめてください!」
思わず、大きな声が出てしまった。
冬美さんも真島くんもびっくりしている。
「里山どうした?」
真島くんが心配そうな顔を向ける。
そんな顔しないで。言いたいことは分かるから。
でも、駄目なの。
「まきちゃん、気持ちは分かる。友達だもんね。でもね……」
「うるさい! うるさい! うるさい! だまれ! だまれ! だまれ!」
わかるわけない。
わかるはずがない。
ユウちゃんが震えてる。
身体を縮め、顔を引きつらせ、脅えている。
「今日は、もう、帰ってください」
大丈夫、そんなことはさせない。
私はユウちゃんの友達だから。
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