第16話 冬美さんが怖い
「ごめんなさい、驚かして……ユウちゃんは怖い幽霊じゃないから、大丈夫です」
とにかく二人を落ち着かせなければ。
折りたたみ式の小さなテーブルを部屋の中央に置き、クッションを敷いて座るようにすすめる。
二人は恐る恐るといった感じで席についた。
こんなに怖がるとは思わなかった。
さすがに姉弟。怖がり方までよく似ている。
でも、怖がるということは、少しは幽霊の存在を信じてくれているのだろう。頭のおかしな娘だと、思われてなくて良かった。
さて、これからどうしよう?
見えていないものを、どう紹介すればいいのか?
「まったく何にも見えないし、聞こえないんだな。里山には見えてるのか?」
まだ少し声のトーンが高いが、さすがは男の子、無理にでも平気を装うとしている。
なんかかわいい。
私は、冬美さんとの間に座るユウちゃんに手のひらを差し出す。
「こちらがここに住み着いている幽霊のユウちゃんです。私も、ついこの間まで見えてなかったのだけれども、急に見えるようになって友達になりました」
う~ん。
やっぱり、変だ。うまく、紹介できない。
冬美さんは、一瞬、ぴくっとなって距離をとり、隣のユウちゃんの方に顔を向ける。
「はじめまして、ユウちゃんです」
自分のことを「ちゃん」づけで呼ぶんだね。ちょっと、イタイよ。
「ユウちゃんが『はじめまして』って」
「あ、ああ、はじめまして……真島博人です」
「博人の姉の冬美です。よろしく……なんか、何もない空間にあいさつするのって不思議」
ぎこちないながらも、一応、初対面のあいさつができてほっとした。
二人とも少しは落ち着いたようだ。
「どんな姿なんだ? 白い着物とか着てるのか?」
「ううん。普通の女子高生の夏服」
「か、かわいいのか?」
まったく、真島くんも男子なんだね。かわいいかどうかが気になるんだ。
まあ彼女でもないし、ヤキモチ焼くのもおかしい。
「かわいいよ、すごく」
「そ、そうか……」
かわいいと私が言ったのが嬉しかったのか、ユウちゃんは満面の笑みだ。
「まきちゃんもかわいいよ」
そんなことないよ。ユウちゃんに比べたら、私なんか全然だ。
冬美さんが姿勢を正し、ユウちゃんの方を見る。
めっちゃ見てる。
眉が少し上がってる。
「う~ん」
うなり声が出た。
「まきちゃん、冬美さん怖いよ」
ユウちゃんが私の後ろに隠れる。
「やっぱり、見えん。全然、見えん」
「今はそこじゃないです。私の後ろです」
「そっちか?」
こちらに顔を突き出す。
怖い。
目が怖い。
「冬美さん、ちょっと怖いです。ユウちゃんもビビってます」
「姉貴、ちょっと失礼だよ」
「う~ん。集中すれば見えるかもと思ったけど、無理だな」
表情が和らいだ。どうやら、見るのをあきらめたようだ。
びっくりした。急に、鬼みたいなモードに入ったから、怖かった。
そもそも、私は怖がりなんだよ。そんなに脅かさないで。
「まきちゃんのこと、信じないわけじゃないんだけど、一応、幽霊がいるかどうか検証したいんだけど、いい?」
「検証?」
「どうやるんだ?」
よくわからないけど、それでユウちゃんの存在が証明できるなら、そのほうがいい。
うなずく。
冬美さんは持参したバッグの中からトランプを取り出し、シャッフルしだした。
「この中から、私が一枚抜く。まきちゃんには見せずに、ユウさんには見てもらう。それで、ユウさんがまきちゃんにトランプの数字と絵札を教えることが出来れば、ユウさんは存在する。どう?」
なるほど、私が見ずに当てられたら、ユウちゃんが教えてくれたと分かるわけか。
単純だが、わかりやすい検証だ。
ユウちゃんを見る。
難しい顔をしていたが、少し考えて理解したようだ。「まかせなさい」と胸をたたく。
「じゃあ、はじめるよ。これは?」
冬美さんは一枚を抜き出し、顔の横に掲げた。
「驚いた。十枚、すべて正解だ」
冬美さんは納得したみたいだった。真島くんもなんどもうなづく。
信じてもらえて良かった。
「実は少し、疑っていたのよ。幽霊がいるんじゃなくて、まきちゃんの頭の中だけに存在しているかもしれないって」
「え? どういうことです?」
「私たちには見えないけど、まきちゃんには見えるという状況が信じられなくて。幻肢痛って知ってるかな? それと同じみたいなことかなと思って」
「なんですか? げんしつう?」
「事故とかで、手や足がもう無くなっているのに、まだそこにあるようにかゆくなったり、痛くなったり感じること。現実にはないものが、脳はまだ存在していると認識しているのね」
なんか聞いたことあるかもしれない。
ドラマだったか、映画だったか……。
「妄想とか幻想とか?」
「まあ、そういうことかな? これで、何者かが存在することは証明された」
「え? 何者か?」
「姉貴、どういうこと? 幽霊じゃないのか?」
ユウちゃんを見た。
なんか不安げな表情だ。
「まだ幽霊と決まったわけじゃない。妖怪とか悪魔とかの可能性がまだ残っている」
「えー!」
真島くん、「えー!」じゃないよ。そんなわけないでしょ。
冬美さんもしたり顔で何を言い出すやら。
ユウちゃんがそんな怖いものなわけない。
「妖怪? 悪魔? どうしよう、まきちゃん」
ユウちゃんが私にすがりつく。なんであなたまで、そんなに慌ててるの?
ああ、なんか面倒くさいことになってきたな。
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