第14話 友達のことは、もっと知りたい

「ただいま……」

「おかえり……まきちゃん、どうしたの?」


 私の沈んだ様子を見て、ユウちゃんが駆け寄る。

 心配かけてばかりで、ごめん。


「真島くんと連絡先交換した……」

「え? ああ、よかったじゃない……ん?」

「明日、この部屋に遊びに来たいって言われた」

「……まじで? すごい。急展開じゃん」


 ユウちゃんの目が丸くなる。

 驚いているようだ。


「そうなんだけど……」

「どうしたの? なぜ、そんなに暗い顔? うれしくないの?」


 眉を寄せ、顔を覗き込まれた。

 それはうれしいよ。ただ遊びに来るだけならね。

 真島くんがこの部屋に来る妄想なら何回もしたし、実現するなんて思ってなかった。

 でも、こんなシチュエーションではない。


「ユウちゃんのこと話した」

「……え? なんで?」

「真島くんとお話しできるのがうれしくて……つい、うっかりと……」

「そうなんだ。それで、信じてくれた?」


 ユウちゃんは冷静だった。

 特に秘密にしようと約束したわけでもない。でも、彼女に断りを入れるべきだった。そう思った。

 でも、他の人に、存在を話されることに抵抗を感じてないようだ。

 特に怒った様子はない。

 それは良かった。


「変な顔された……頭がおかしいと思われた……絶対、気味悪い女だと思われた」


 そうに違いない。

 不思議なものを見るような、馬鹿にしたような顔。そこに、人をあわれむ感情が足されていったような微妙な表情をしていた。


「そんなことないでしょ」

「あるよ。そういう顔だった」


 終わった。

 もう、里山まきの「青春」は終わったのだ。

 あとは苦しくて辛い「受験戦争」だけが残った。

 もうすぐ、夏休みだというのに……。


「まきちゃん、勘違いしてるよ」

「……」


 いやいや、ユウちゃんにはわからないよ。

 真島くんのあの微妙な顔を見てないから。

 せっかく、距離が縮んだと思ったのに、私の不用意な発言で台無しだ。

 馬鹿だ。私は馬鹿なのだ。


「気味の悪い女の部屋になんて、来たいとは思わないよ。でしょ?」

「……怖いもの見たさとか?」

「違うよ。まきちゃんに興味があるからに決まってるよ」

「興味……変な女だから?」

「もう! 今日のまきちゃん、ネガティブ過ぎ。好きだからでしょ」


 ないない。絶対ない。

 真島くんが私を好きなわけがない。


「そんなわけないよ」

「私を信じないの? まきちゃんの恋愛指南役だよ」


 いつから、そんな役職についた?

 でも、ユウちゃんのアドバイスで真島くんとお近づきになれたのも事実。

 ああ、もうわからない。

 わからな過ぎて、頭がおかしくなる。


「ああ、もう、わからん」

「いいから、いいから。明日の作戦会議しよう。お茶とかお菓子とかどうする? 真島くんは甘いのは好き?」

「えっと……たぶん好き」

「じゃあ、帰りにショートケーキ買ってきて。イチゴのやつ」

「え? イチゴ限定?」

「そうだよ。お家デートには、イチゴのショートケーキと相場が決まってるの」

「そうなんだ……で、デート? 違うよ。遊びに来たいって言われただけだよ」

「男の子が女の子の部屋に遊びに来る。それはデートでしょ?」

「……」


 違う、違う。

 いくらなんでも、そういうのじゃない。


「あと、ゲームとか? トランプでもする?」


 ユウちゃんは楽しそうに、あれこれと提案をする。

 絶対、違う。

 今、気付いた。

 ユウちゃんは私より、ずっとかわいい。とてもやさしい。

 私より魅力的で、いっしょにいると楽しい。

 真島くんは幽霊に興味がある。もし、ユウちゃんが見えるなら、ユウちゃんの方を好きになるに決まってる。

 私じゃなくて、ユウちゃんがいるこの部屋に来たいんだ。

 私じゃないんだよ。


「ねえ、怒ってないの? 勝手に、真島くんにユウちゃんのこと話して」

「え? なんで怒るの?」

「だって……」

「うれしいよ。まきちゃんの大事な人に、明日会えるから」

「そういうもの?」

「友達ってそういうことでしょ? まきちゃんのことをもっと知りたい」


 そうか、友達って相手のことをもっと知りたくなるものなのか。

 そうだね。

 私もユウちゃんのこと、もっと知りたいと思うよ。






 次の日、登校したら、もう真島くんは来ていた。

 机に座って、なにやら本を読んでいる。うん、今日もかっこいい。

 私は静かに自分の席につく。どうやら、気付かれていないようだ。

 そっと真島くんの様子を伺う。

 読んでいる本のタイトルが見えた。「私の体験談 幽霊はいる」

 まじか……。

 視線に気付いたのか、顔を上げられた。

 顔を背ける。

 しまった。見ていたのがばれたかも?

 もう一度、そっと目を向ける。

 やばい。めっちゃ、こっち見てる。

 あわれみを含んだ微妙な笑顔……ああ、そんな顔で私を見ないで。

 なんとか笑顔を返し、正面を向いた。

 

「ふー」


 なんか空気が薄くなってるんじゃないかと感じた。



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