第12話 そばにいるよ
「おい、どうした?」
「え~、なになに?」
教室の外が騒がしい。
少し気になったが、英語の教科書に視線を戻す。
「大丈夫だよ。少し、大袈裟にしすぎなだけだから」
え? 真島くん?
再び、視線を上げる。
クラスメイトに囲まれて、松葉杖をついた真島くんが現れた。
なぜ?
右足首から下は、包帯姿だ。昨日は普通だったのに。
「ただの捻挫、たいしたことないから。でも、部活は引退だ」
え? ちょっと待って、どういうこと? 何があったの?
いますぐ駆け寄って、聞きたい。
最後の大会、あんなに楽しみにしていたのに。
部活、引退?
嘘でしょ?
これで終わり?
何とかならないの?
「嘘だろ? 治らないのかよ?」
サッカー部のクラスメイトが言う。
「ごめん。無理だ。間に合わない。俺抜きでやってくれ」
「まじかよ……」
真島くんはあっさりと言った。表情も、なんてことはないといった感じ。
そんなわけはない。悔しいに決まってる。
クラスメイトに肩を借り、慎重に席に座る。
なげだされた右足の包帯が痛々しい。
高校最後の大会。負ければ引退して、受験勉強。
それが高校三年生の宿命。
なのに、その大会にすら出られない。
うちのサッカー部は県大会に出場できるかどうかといったレベルらしい。その前の地区予選で負けたら、それで終わり。
そして、真島くんはチームのエースストライカー。
しきりに「ごめんな」とくり返す真島くん。
自分だって辛いはずなのに……。
みんなと話しているのを聞いていたことによると、私と別れた後、自転車で帰宅途中で事故にあったらしい。
道路に飛び出した猫を避けようとして、歩道の縁石に乗り上げ、自転車の下敷きになって転んだということだった。
私とバーガーショップで時間をつぶしたから、事故に遭遇した。そんな風に思わないわけでもないが、それは自意識過剰だ。不運は突然、やってくるもの。
でも、責任の一端は感じる。
なにかしてあげたい。
帰宅時、校庭の隅で立っている真島くんに気付いた。
サッカー部の練習を眺めているようだ。
声をかけようとして……やめた。
寂しそうな顔だった。
「しょうがないよ。まきちゃんのせいじゃない」
ユウちゃんがなぐさめてくれる。
いつものように飛びかかろうとして、私の雰囲気を察知したのか、眉を寄せ、心配顔になった。
話をすると、いっしょに落ち込んでくれた。
やさしい娘だ。
「わかってるけど、なにかしてあげたい」
「うん」
「どうしたらいい? こういう時、どうしたらいいと思う?」
ユウちゃんは腕を組み、頭を下げた。
真剣に考えてくれているようだ。
「まきちゃんはどうしたいの?」
「わからない……真島くんがすごく落ち込んでいて、悔しくて、辛いのは知ってる。でも、なぐさめたり、励ましたりするのは違う気がする。部活動、一生懸命やってた人に、なんにもしてない私がなにか言うのは嘘くさい。本当のところは、私なんかが真島くんの辛い気持ちをちゃんと理解できているなんておこがましい」
「そんなことはないと思うけど……そうだね、今はそっとしておいてあげたほうがいいかも」
「やっぱり?」
「でも、そばにいてあげるのはいいかも。 きっと、寂しいから」
「ただ、そばにいればいいの? なにも言わず?」
「軽い世間話とか、相づちくらいね」
難しいかもしれない。
そっとしてあげるのがいい。でも、知らん顔するのは違う。
気持ちの整理がつくまで、見守ってあげたい。一人で苦しまないでほしい。
私がいるよって伝えたい。
「できるかな?」
「できるよ、まきちゃんなら」
ユウちゃんがこぶしを握り、ガッツポーズをしてほほ笑んだ。
ああ、ほっとする。
勇気が湧いてくる。
やっぱり、ユウちゃんに相談してよかった。
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