第10話 真島くんに「かわいい」って言われた

 学校に登校すると、クラスメイトの視線が気になった。

 笑われている。

 恥ずかしい。

 やっぱり、ポニーテールなんて似合わない。

 こういう髪型は、もっとかわいい女の子がするものだ。

 どうしよう。

 元の髪型に戻すか? でも、せっかくユウちゃんが考えてくれたのに。

 どうしよう……。


 自分の席で、一限目の教科書を出しながら、平静を装いつつ周りを気にする。

 

「おはよう」


 真島くんの声だ。

 登校して来てしまった。

 どうしよう……どうしよう……。


「あれ? 里山か? 髪型変えたのか?」


 気付かれた。

 思わず、うつむきかげんになる。

 肩を掴まれ、上げられた。覗き込まれる。

 真島くん、近い。恥ずかしい。


「いいじゃん! 似合ってる」

「……え?」

「こっちのほうがいいよ。かわいい」

「か、かわいい?」


 どうしよう?

 かわいいって言われた。

 かわいいって言われた。

 かわいいって言われた。


 ダメだ。顔が熱い。思考停止。

 真島くんも自分で言って、目をそらして恥ずかしがらないで。

 よけいに恥ずかしい。





 今日は一日、授業が頭に入らなかった。

 ああ、ユウちゃん、あなたは私の女神なの?


 駅前のカメラ屋に現像を頼む。約一時間くらいで出来るということだ。

 早く見たいので、本屋で時間をつぶすことにする。

 幽霊関係の本はあるかなと探し、一冊を見つけ、ページをめくる。

 文字が多い。そして、絵や写真が怖い。

 ユウちゃんはこんなのではない。

 他にはないか?

 どれもこれもイメージが違う。

 児童向けの本ならどうだろうと、そのコーナーへいく。

 あった。めくる。

 絵が少しポップになっただけで、やっぱり怖い。

 パラパラとめくって、戻す。

 幽霊の本はとりあえずやめて、参考書コーナーで時間をつぶすことに。


 時間になり、カメラ屋で写真を受け取る。

 早く見たいので、バーガーショップでシェイクを頼んで、席につく。

 写真を見る。

 写っていない。どれもこれもユウちゃんの姿は写っていなかった。


「あー! やっぱりダメか~」


 少しは期待していた。

 ユウちゃん、またがっかりするだろう。

 テーブルに写真を広げたまま、その上に頭を伏せた。

 しょうがない。

 また、別の方法を考えることにしよう。


「めずらしいな。写真か?」

「ま、真島くん? どうしたの? 部活は?」


 びっくりした。

 すぐ横にバーガーセットのトレーを持って立っている。「となりいいか?」と言いながら、別のテーブルに座る。


「もう終わった。なんの写真? 見ていいか?」

「うん。何も写ってないよ」


 真島くんは写真をまとめて、揃え、一枚ずつめくっていく。


「なんだこれ? 里山の部屋か?」


 ……しまった。ユウちゃんの写真だが、写ってないので、ただの私の部屋の写真になっている。


「ちょっと、待った! やっぱり、見ないで!」


 奪い返そうとした手を背中と肘でガードし、真島くんは次々と写真をめくる。


「へえ~さっぱりした部屋なんだな。姉ちゃんの部屋より、綺麗に片付いてる」

「ダメだって! 恥ずかしい」


 やっとのことで奪い返す。


「別に恥ずかしがることないだろ? あまり乙女チックな感じでもないし、里山らしい部屋だ」


 どういう意味だろう? かわいくない部屋だと思われた?

 顔が熱い。


「ダメなの!」

「まあ、いいけど。それより、なんで写真? しかも自分の部屋なんか撮ってどうするんだ?」

「それは……」


 幽霊を撮りたかったと言ったら、真島くんは引くだろうか?

 引くだろうな。絶対引く。

 おかしな女子だと思われるに決まってる。

 言えない。

 絶対に言えない。


「いろいろあるの!」


 真島くんはまだ眉を寄せていたのだが、こちらが黙っていると、ハンバーガーを食べ始めた。

 

 それから、真島くんの部活、サッカーの話になった。

 私は適度に相槌をうち、聞き役として時間を過ごした。

 

 なんか、デートみたいだなとちょっと思った。


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