第9話 写真撮影会
「やっぱり、写らないか……」
まあ、そうだろう。想定内だ。
「がっかり……まきちゃんと写りたかったな……」
ユウちゃんはベッドの上で体育座りで、しょんぼりしていた。
デジタルでダメなら、これでどうだ。
「じゃ~ん。『写ルンです』」
「なにそれ?」
「使い捨てのフィルムカメラ。スマホで撮れると最初から期待してないのだ。フィルムなら、幽霊でも撮れるかも」
「おお。すごい、まきちゃん」
こんなこともあろうかと、駅前のカメラ屋で購入していたのだ。撮った写真を現像できることも確認済み。
中身を取り出し、ファインダーを覗く。
うん。見える。これは期待が持てる。
まずは、パシャリ。
「ちょっと、まきちゃん。まだポーズとってないよ」
「ごめん、ごめん。もう一枚いくよ」
「待って! 待って!」
肩をすくませ、首を傾げる。両手で髪をつまんで、にっこり。
かわいい。めっちゃ、かわいい。
「いくよ。はい、チーズ」
パシャリ。
「今度は二人で撮ろう!」
「ちょっと待って……いくよ。はい、チーズ」
パシャリ。
「ユウちゃん、その机の上に腰かけて……そうそう、右足上げて」
パシャリ。
「胸のボタン、もう一つ外してみようか……そう、前かがみで……いいね、その表情」
パシャリ。
「スカートの端をつまんで……もうちょっと上げて……いいね、パンツ見えそうで見えない感じ」
パシャリ。
そんなこんなで、二十七枚撮りきった。
大笑いしながら、二人でベッドに寝転がる。
「まきちゃん、エロカメラマンみたいだったよ」
「ちょっと、目覚めたかも……」
そういえば、女子同士できゃっきゃしながら写真を撮り合っているのを見たことがあった。
何が楽しいのだと馬鹿にしてた。SNSにあげている人なんか、自意識過剰だろうと思っていた。
びっくりだ。
想像以上に楽しい。
めっちゃ楽しい。
「これ、どうするの?」
「明日、カメラ屋さんに持って行って現像してもらう」
「どうかな? 写ってるかな?」
「写ってたら、カメラ屋さん、びっくりしちゃうね」
「そっかあ、私、幽霊だもんね」
ユウちゃんの私服姿も撮りたいな。幽霊を着替えさせることって出来ないのだろうか?
ひらひらのついた衣装とか着せてみたい。
「ねえ、ユウちゃん、服っていつもそれ? 他の服はないの?」
「無理言わないでよ。私、幽霊だよ」
「やっぱり、無理か……」
「代わりにまきちゃん、いろいろ着てよ。まきちゃんの服、地味なのが多いよ。せっかくかわいいのに、もっとおしゃれしなきゃ」
「か、かわいい? わたしが?」
嘘だ。そんなわけがない。
地味でかわいげのなさなら自信がある。その証拠に、今まで生きてきて、告白されたことも彼氏がいたこともない。
「いつも思ってたのよ。まきちゃんかわいいなって」
「冗談やめてよ」
「冗談じゃないよ、本当だよ」
「……嘘だ」
「手始めに髪型変えてみよう。まきちゃんは顔が小さいから、ポニーテールが似合うと思うんだよね」
「無理無理。耳を出したくない。お父さんに似て大きいから」
耳を隠したいがために、髪を伸ばしている。直毛でしっかりした髪質だから、エジプトのクレオパトラの壁画みたいな髪型だが、仕方がないと思っている。
「そんなことない。かわいい耳だよ。ぜったい似合うから、一度、やってみて」
それから、二人でああだこうだ言いながら、髪をまとめてみる。
「やっぱり変だよ。顔が出すぎだよ」
「そんなことない。すごくいい。明日から、この髪型で登校してみて。モテモテだよ」
「……」
そんな馬鹿なと思ったが、せっかくユウちゃんが提案してくれたので、一度くらいはこの髪型でもいいかと考える。
「あと、制服のスカート。もう少し短くしてみよう」
「え? スカートも?」
「いいから、いいから。私を信じて」
「……」
本当に大丈夫だろうか?
その夜、ユウちゃんの寝顔を見ながら後悔した。
このかわいい寝顔の写真も撮りたい。少しフィルム残しておけばよかった。
まあ、それは次の機会に取っておこう。
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