第7話 真島博人くん

 昼休み、教室から校庭をながめていた。

 外は青空でいい天気、多くの生徒が校庭に出ている。

 自販機で買った紙パックのりんごジュースを飲みながら、それを観察していた。

 この時間は、みんな友達といっしょにいる。

 木の陰で集まっている女子のグループ、ボール遊びをする男子のグループ。

 教室でも机を寄せて、お弁当を食べながらおしゃべりしている人たちもいる。


 私は、母が作った弁当を自分の席で食べ終わり、窓越しに移動して考えていた。

 ユウちゃんのことだ。

 今だけではなく、ずっとなにかしら考えていて、ふと思ったことがある。

 ユウちゃんが見えるようになっただけなのか、他の幽霊も見えるようになったのか?

 これは大事な問題だ。

 ユウちゃんは普通の女の子の姿をしている。だが、幽霊といえば、矢がいっぱい刺さって血だらけの落ち武者や白い着物でまぶたの腫れた醜い女のイメージだ。

 そんなものまで見えるようになっていたら、怖すぎる。

 今のところ、学校の中に、宙に浮いている人も身体が透けている人も見当たらない。

 そもそも幽霊がいないのか、見えていないだけなのか?


「里山、どうした? 顔が怖いぞ」


 聞き覚えのある男子の声がして、振り向いた。

 びっくりした。

 なぜ、教室にいる? さっき何人かと出て行ったので、みんなと遊んでいると思っていた。


「真島くん……どうしたの? 外にいたんじゃ……あ!」


 顔が怖いって言われて気付いた。

 昨日ぶつけた額がまだ、腫れている。髪型で誤魔化していたが、こんなに近くで見られたら気付かれる。

 恥ずかしい。

 顔を手で覆う。


「ん? 今さら顔隠しても、小学生からの付き合いなんだから、里山だってわかるぞ」

「いやいや、そうじゃなくて、たんこぶあるから、見られたくない」

「そうなのか? 見せて」


 手首を握られた。

 大きな手だ。


「駄目だって! それより、教室に用事あったんでしょ?」

「ああ、スマホ忘れて取りに来た」


 手首を離された。ほっとしたような残念なような……。

 真島くんは自分の席に戻り、カバンの中を探し始めた。


「博人、あったか?」と、クラスメイトが呼びに来て、「おう!」と返事して、真島くんは教室を出て行った。


 びっくりした。

 いきなり近くで声かけられたから、驚いてしまった。

 怖い顔って言われた。

 ショックだ。

 これから、気を付けよう。

 それはともかく、真島くんのスマホを見て、気付いたことがある。

 ユウちゃんは写真に写るのだろうか?

 もし写ったら、心霊写真ということになるのだろうか?

 たまたま撮った写真に霊が写っていたら怖いけど、ユウちゃんが写ってもただの記念写真。

 友達といっしょに撮るのと変わらない。

 撮れたらいいなあ。

 彼女は、いずれ成仏するのだろうし……。





 図書館にもよらず、学校を出た。

 ちょっと怖いけど、他の幽霊が見えるかの検証だ。

 墓地、お寺、神社と回り、交通事故現場にも行ってみた。

 幽霊とは出会わなかった。

 いないだけだと考えるよりも、ユウちゃん以外は見えないのだと考えるほうが納得がいく。

 そういう結論でいいだろう。


 今日は、あと、稲垣のおばあちゃんを訪ねて帰ることにしよう。


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