第3話 幽霊のユウさん

 目が覚めた。

 少し気を失っていたようだ。頭がじんじんと痛い。


「わ~ん、まきちゃ~ん」


 よく泣く幽霊さんだ。ちょっとうるさい。

 額に手をやる。血は出てないようだが、たんこぶが出来てる。触ると、めっちゃ痛い。


「まきちゃ~ん、ごめ~ん、幽霊だと何もできないよ~」

「わかった、わかった。もう大丈夫だから」

「まきちゃ~ん。よかった~よ~」

「わかったから、もう泣かないで」

「まきちゃ~ん」

「うるさい!」


 頭がじんじんする。

 とりあえず、たんこぶの確認。そして、散らかした塩の掃除だ。




 風呂に入り、夕食を食べ、たんこぶに冷えピタを張って部屋に戻る。

 時間を置いたことで、少し冷静になった。今後のことを話し合わなければ。

 幽霊さんが待ってましたとばかりに、笑顔を向けてきた。

 ため息をつく。

 普段なら、勉強タイムである。まあ、この状況でそれは無理だから、机には向かわず、ベッドに腰を下ろす。


「まだ痛い? 大丈夫?」

「痛いけど大丈夫。それよりどうするか決めましょう。幽霊さんは……」

「待って。『幽霊さん』はやめようよ。友達なんだから」


 おいおい、いつから友達になった? と思ったけど、また泣かれるのも困るから、まあいいや。


「名前あるの?」

「……覚えてない……いっしょに考えて」


 つぶらな瞳で見つめるのは、やめてほしい。

 もう、面倒くさい。


「じゃあ、『ユウ』にしよう」

「……幽霊だから、『ユウ』? 安易じゃない?」

「じゃあ、何がいいの?」

「……えっと……」

「『ユウ』に決定!」

「え~」


 ブツブツ何か言っていたが、面倒だから無視する。


「ユウさんは自分がどこの誰かも、なぜここにいるかもわからない?」

「うんうん」

「一年前からここにいる。出ていくことも、成仏することもできない?」

「この部屋から出ようとすると、身体が引っ張られる感じで戻っちゃうの。何度も試して、あきらめた。成仏は……どうしたらできるか知らない」


 まあ、そうか。

 なぜ幽霊になったのかも知らないのに、成仏の仕方なんて知るわけないか。

 でも、このままというわけにもいかないし……。

 

「ここから出ていく方法が見つかったら、出て行って……くれる?」


 だから、そんな目で見ないでくれ。

 かわいそうだとは思うけど、私だって迷惑なんだ。受験生なんだよ。


「……わかった。まきちゃんに迷惑かけて……ごめん……」

「だから、見つかったらって話だよ。それまでは……」


 もう、泣くのは勘弁してほしい。


「ごめんね」


 ああ、もう面倒くさい。

 

「わかった。もう、成仏するまでここに居ていいから、泣くのはやめて」

「本当?」

「本当」

「ずっとここに居ていい?」

「ずっとじゃなくて、成仏するまでね」

「やったー!」

「……」


 ユウさんは手を上げ、はしゃいだように動き回る。

 なぜ、そんなに喜ぶ? 

 今まで泣きそうだったのに、もうこれだ。

 幽霊というのは、情緒不安定なのか? この娘が特別なのか? きっと後者だろう。

 しかし、これはどうしたものか。

 一年もの間、のぞき見されていたというのは恥ずかしいことだが、ここはポジティブに考えて、男の幽霊じゃなくて良かったとすることにしよう。

 それでも疑問が残る。

 なぜ、今まで見えなかったものが見えるようになったのだ?


「ねえ、ユウさん。なぜ、私はあなたが見えるの?」

「……?」

「おかしいよね。一年前からここに居たのに、今までは見えなかった。なぜ、急に見えるようになった?」

「ん~知らない。けど、うれしい」


 少しは考えようよ。

 まあ、ユウさん側の理由ではないよな。

 やっぱり、図書館で見たあの夢のせいかな?

 

 


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