第41話 闘技者ランクアップ


 


 それから俺らがどうなったか。結論から言うと、万事めでたしだ。


 レオドレイクは、背骨が折れていたものの、死んではいなかった。


 回復魔法をかけたのち、水や食料と一緒に山奥に放置された。


 レオドレイクが死んでいない事、レオドレイクが街と住民に与えた被害が大きかったことから、俺は無罪放免になった。


 一番怖いのはメディアとネット上の意見だが、これは賛否が分かれたものの、賛が大多数を占めた。


 一部の雑誌社は、俺のことを、


 【動物虐待】

 【元冒険者の蛮行】

 【冒険者気分が抜けない闘技者の愚行】

 【歪んだヒーロー願望の犠牲になったレオドレイク】


 と批判したし、ネット上では動物愛護団体、環境保護団体がその記事に追従した。


 しかし、今回の犠牲者たちを中心に多くの人が俺の行動を擁護してくれた。


 むしろ、俺のことを批判するアンチたちのほうが非難されることになり、一部の動物愛護団体、環境保護団体は支持を失う事態にまで発展した。


 世間の反応に敏感な新聞やマスコミは、こぞって俺のことを英雄視して、事件から三日たった今日も、取材を四件こなしてきたところだ。


 ちなみに、取材で俺が「嵐山の試合を見に行っている時にレオドレイクが現れた」と言ったせいで、嵐山は少し批判されている。


 元Fランク冒険者でDランク闘技者の高橋孝也が戦っているのに、嵐山はどこでなにをやっていたのか、と。


 SNSでは一貫して、自分は一線を退いた身だから、と言い訳を続けている。でも、批判の声はちょこちょこ上がっている。


 結局、嵐山は闘技者デビューをしたのにメディアの注目は俺ら一色で、嵐山のデビュー戦は話題に上がらなかった。


 いい気味だ。


 家に帰ると、俺は疲れた息を漏らしながらソファに倒れこんだ。


「あー疲れた。午後は全部取材で潰れちまったよ」


「わたしも疲れたのです。どうしてみんな同じ質問を繰り返すのでしょうか?」


「ふふ、お疲れ様。でも、二人が非難されなくて良かったよ」


 春花がテレビを点けると、ニュースは俺とノエルの話題で持ちきりだった。


「みんな、ドラゴニュートにまたがって戦う新時代のドラゴンスレイヤーって、大盛り上がりだよ」


 冒険者を見限ってからドラゴンスレイヤーの夢を叶えるとか、皮肉が効き過ぎだろ。


 苦笑を漏らす俺に、春花は上機嫌にスマホを取り出した。


「それと、二人に嬉しいお知らせがあるんだ。ほら見て」


 春花がスマホの画面を突き出してくる。


 俺とノエルが首を伸ばすと、そこには驚きの連絡が書いてあった。


「俺とノエルが三階級特進で、Aランク!?」


「ということは、ハルカの縁談は白紙なのですか?」


「うん、そうだよ」


 満面の笑みで、春花はちっちゃくガッツポーズをした。


「ありがとう、孝也」


 スマホを置いて、春花は俺に、ぎゅっと抱き着いてきた。


 彼女の体温に、一瞬で疲れが吹き飛んだ。


「お、おい、春花」


「ねぇ孝也。これでボクからのクエストは達成されちゃったけど、ノエルと一緒に闘技者、続けてくれる?」


「そ、そんなの当然だろ。つうか、もう俺、冒険者とかどうでもいいし。俺はこれから、桜森事務所の看板闘技者としてやっていくんだから」


 春花の腕に、力がこもった。


「じゃ、じゃあ、Sランク闘技者、目指してくれる?」


「Sランク闘技者?」


 そういえば春花、Sランク闘技者になったら嵐山と戦えるとかなんとか言っていたよな?


 別に、もう嵐山への憧れは無い。


 でも、タイマンで嵐山を倒してこそ、ケジメを付けられる気がして、俺は頷いた。


「そうだな、どうせなら目指すか、Sランク」


 春花の頬が赤く染まり、口許がにやける。


 隣で、ノエルが手を叩く。


「おめでとうなのですハルカ」


 ——ん? なんか空気おかしくないか?


 そこへ、玄関のドアが開く音がして、足音が近づいてくる。


「邪魔するぞ春花!」


 リビングのドアを開け、スイカ大のバストを揺らしながら現れたのは、背の高い絶世の美女だった。つまり、春花の母親、桜華さんだ。



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