第40話 決着!



「デトネイション、連発だぁああああああ!」


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」


 体内に直接爆轟魔法をブチこまれては、さしものレオドレイクも無事では済まない。


 断末魔の叫び声を轟かせながら、レオドレイクはより一層暴れまわった。


 それに比例するようにして、俺は肉体と魔力の限界を破り抗った。


 爆轟魔法を行使し続けると、やがて穂先が、何か硬いモノに当たった。


 レオドレイクの背骨だろう。


 爆炎が肉を焼き、衝撃波が背骨にヒビを入れていくのがわかる。


 レオドレイクの暴れっぷりはさらに加速して、ロデオどころか、まるで、巨人のシェイカーに入れられているような気分だった。


 それでも俺は手を離さなかった。


 ここで負けたくはなかった。絶対に。


 冒険者業界が衰退しても、冒険者がインチキでも、俺の思い描いた未来が空想でも、それでも、子供の頃に感動して目指したこの思いだけは本物だから。


 子供の頃の自分に、胸を張って言いたいから。




 未来のお前は、誰かのために戦っている!




「この手は、死んでも離さねぇえええええええええええええ!」


 穂先の先端で、何かが砕けた。今までとは違う感触が、手の平に伝わってきた。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――」


 レオドレイクの絶叫が途切れた。


 巨躯が一気に力を失い、一瞬の無重力間のあと、地上へと自由落下していく。


 ――終わった。


 気が抜けたんだろう。


 あれだけ叫んでおきながら、俺の手は、あっさりとハルバードから離れた。


 もう、手の感覚が無い。


 俺の体はレオドレイクから離れて、空を舞った。


 精魂尽き果てた心は凪のように静かで、全身に強風を浴びながら、まぶたを下ろしてしまう。


 これで、俺は少しでも理想に近づけたのか。


 子供の頃の自分に恥じない自分になれたのか。


 自分自身にそう、問い掛けた。


 体はどこまでも落ちていくが、不安は無かった。


 だって、俺には仲間がいるから。


「タカヤー」


 ノエルの声を聞いて、俺は微笑した。


 信じていた通り、彼女はちゃんと来てくれた。


 そして、やわらかい何かに受け止められた。


 ——いや待て、なにか柔らかすぎないか? それに、熱くて濡れている。


 晴れやかな気持ちから一転。


 俺は訝しみながら目を開けた。


 すると、サーモンピンク色の世界が広がっていた。


 そして周りには、白い牙がズラリと並んでいる。


 ありていに言えば、俺は食われていた。


「なんで!?」


 すぐに、口の中に桜色の指が入ってきて、俺をつまみ上げた。


「すいませんタカヤ。わたしの手だと、あの速度で受け止めるとただ金属板に激突しただけになるので、お口キャッチするしかありませんでした」


 翼から炎を噴射し続け、空中でホバリングしながら、ノエルはしょんぼりと謝ってくれた。


「いや、ありがとうな。これぐらい洗えばいいよ」


 俺は、全身ノエルの唾液まみれという、聞き方によっては酷い誤解を受けそうな状態の自分に、水魔法を浴びせ続けた。


 爆発魔法以外はあまり練習しなかったので実戦では使えないが、シャワーみたいに水を出すだけなら問題ない。


「ところでレオドレイクは?」

「はい、地上に落とすと大変そうだったので、回収しておいたのです」


 見れば、ノエルの後ろ足は、レオドレイクの尻尾をわしづかんでいた。


 推定10トン以上のドラゴン一頭をつかんだままホバリングできるのは、彼女のジェット噴射能力の賜物だろう。


 筋力では負けても、推進力だけは一級品らしい。


「偉いぞノエル」

「えへんです」


 ドラゴン形態でも、ノエルは変わらず、可愛く胸を張った。可愛い。


「じゃあ、帰りましょう」

「ああ、行くか、春花の待つ場所に」


 ノエルは俺を背中に乗せると、闘技場に向けて飛び立った。


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