第35話 ヒーローの出番


 それによると、政府はレオドレイクの殺傷も止む無しと判断し、自衛隊に交戦許可を出したらしい。


 やっとか、と思う反面、田舎の住民がどれだけ殺されても知らぬ存ぜぬだったくせに、自分らの棲む首都が攻撃された途端これかと、俺は毒づきたい気分だった。


「でも、これで安心だね。いくらレオドレイクでも、戦闘機の編隊には負けるでしょ」


 春花は、釈然としないながらも、胸をなでおろした様子だった。


 けれど、俺は声を濁らせた。


「だと、いいんだけどな……」


 俺は、スマホのワンセグ機能でニュースを見る。


 テレビ局のヘリコプターから撮影しているんだろう。レオドレイクと、援軍の戦闘機のドッグファイトが流れている。


 しかし、レオドレイクは空を縦横無尽に飛び回り、戦闘機の銃弾を避けていく。


 逆に、レオドレイクが火球を数発放てば、必ず一発は戦闘機に被弾する。


 そして、戦闘機は墜落して、首都のビルに突っ込んだ。


 鋼の巨体がビルを斬り裂き、ビルに大きな亀裂が何本も入る。


 思わず、倒れるな!と心の中で叫んでしまった。


 ビルは倒壊を免れ、息をついた。


「なんで? 孝也、レオドレイクってジェット戦闘機よりも強いの?」


 驚愕に目を丸くしながら、春花は尋ねてくる。


 俺は、沈鬱な気持ちで、口を開いた。


「経験の問題だ。スペックから、ドラゴンは戦闘機並なんてたとえられる。でも、ドラゴンは日常的にドッグファイトをする一方で、パイロットはドラゴン相手の戦闘経験が無い」


 ドラゴンからすれば、普段縄張り争いなどで戦う同じドラゴン同士と違い、前にしか攻撃できない戦闘機は、易い相手だろう。


 空対空ミサイルを使えば勝ち目もあるが、外した時のことを考えれば、市内で撃てるわけもない。


 このままだと、大和国の首都が火の海だ。


 どうすればいい?


 焦る中、俺は天啓を閃いた。


「いい方法がある。春花! 控室に行くぞ!」

「なるほど! その手があったね!」


 春花も気が付いて、手を打ち笑顔を見せた。


 ノエルが客席に戻ってくると、俺は柵を超えてバトルフィールドに降りた。そして、選手入場口から、控室へと走った。





 俺らが向かったのは、選手控室だ。


 ノックもせず、俺がドアを開け、跳びこむと、その人はタオルで顔を拭いているところだった。


「嵐山さん! 出番ですよ!」

「ん? 孝也か。出番て何がだ?」


 この非常事態に、嵐山さんはとぼけた顔で首を傾げた。


 これが、大物の余裕か。


「何を言っているんですか。館内アナウンスがあったでしょう。市内にレオドレイクが出ました。政府は交戦許可を出しましたが、戦闘機は次々落とされていて街がピンチなんです! 嵐山さん、軽くひねっちゃってください!」


 また、嵐山神の戦いの活躍が見られると、俺は興奮気味にまくしたてた。


 今日の緊急ニュースで、嵐山さんは首都を救った英雄として話題を独占するだろう。


 憧れの英雄のカムバックに、俺は心を躍らせた。


「それはどこの依頼だ? 政府か? 冒険者ギルドか?」

「……え?」


 その問いかけに、俺はぽかんと口を開けた。


「いや、依頼というわけじゃ」

「なら、オレが戦う理由は無いな。第一オレはもう冒険者を引退した身だ。そういうのは警察と自衛隊に任せておけ」


 平坦な声で言いながら、嵐山さんは帰り支度を始めた。


「で、でもその自衛隊じゃ心もとないんです。戦闘機も次々落とされているし、ドラゴンスレイヤー嵐山健二の出番じゃないですか」


 嵐山さん、何言っちゃってるんだろう。


 はは、これは、なにかのジョークかな?


「そんなことは知らないな。少なくともオレの管轄じゃない。政府が正式に依頼してくるならともかく、違うならオレが戦う理由は無い」


 俺は、激しく動揺した。


 この人、本当に嵐山健二か? そっくりさんじゃなくて?


 けど、俺はバトルフィールドで、Sランク闘技者北村涼子を圧倒する姿を目にしている。


 彼は、正真正銘本物の嵐山健二のはずだ。


 俺は諦めずに、マイヒーローの背中に語り掛ける。



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