第33話 Sランク冒険者 対 Sランク闘技者


『それでは時間いっぱい。両者、準備はよろしいですね。それでは試合、はじめぇええええええええ!』


 ブザーが鳴ると同時に、北村が動いた。


 銀剣を縦に一閃。


 それだけで、人工芝のフィールドに氷山が生まれた。


 が、それを読んでいた嵐山はバックステップで距離を取っていた。


 それでも、氷山は津波のように押し寄せ、嵐山を追いかける。


 逃げきれないとわかると、すぐさま足元を起爆させ、上空に飛び上がった。


 爆発魔法の応用だ。


 指向性の爆発で、ジェット噴射のようにして空を飛ぶ。


 ちょうど、ノエルの翼と同じ原理だ。


「かかりましたね」


 北村は読んでいた。


 足元に作った別の氷山で自身の体を跳ね上げ、嵐山と同じ高度に達していた。


 地上20メートルの高みで、Sランク冒険者とSランク闘技者の視線が交差した。


「落ちなさい!」


 北村が銀剣を掲げると、嵐山の頭上に巨大な氷山が、瞬時に現れた。


 同時に、風魔法で水平に飛行して、嵐山の正面から斬りかかる。


 頭上と正面、この二重攻撃に、嵐山は冷静に対処した。


「OK。ならばこうしよう」


 嵐山のハルバードが分裂した。


 長い柄が、真ん中からパキンと折れるように割れる。


 そして、柄が短くなって手斧のようになった穂先側を北村に、穂先のない、石突側の柄を、頭上に掲げた。


「デトネイション!」


 石突から、極大サイズの爆轟が放たれた。志向性の爆轟が、氷山を紅蓮の赤に呑み込んだ。


 空に浮かぶ巨大な火球から、粉砕された氷塊が降り注ぐ。まるで、嵐山を守るバリアのようにだ。


「クッ」


 自分自身の氷に行く手を阻まれ、北村の動きが鈍化した。


 その隙を見逃さず、嵐山はハルバードの穂先を突き出した。


「ブラスト!」


 指向性の爆炎と衝撃波が、北村を吹き飛ばした。


 会心の一撃だ。


 けれど、嵐山は止まらない。


 爆発魔法によるジェット噴射で北村を追いかけると、追撃の一撃を叩き込んだ。


「ブラスト!」


 ハルバードの穂先が、北村の腹に食い込み、爆炎を上げた。


 20メートルの高さから、北村は真下に叩き落とされ、芝生に激突した。


 土砂を巻き上げて、地面にめり込む北村。


 分割したハルバードを連結させながら、嵐山は、風魔法で悠々と地面に降り立った。


「まだやるかい?」


 ハルバードの穂先を突き付けられて、北村は剣を離して、手を挙げた。


『試合終了ぉおおおおおおおおおおおお! 勝者は、嵐山健二選手だぁ!』


 試合終了のブザーと共に、客席からは大歓声が起こった。


 俺も立ち上がり、一緒に声を上げた。


「くぅううう! さっすが嵐山健二選手だぜ!」


 春花の前では言えないけど、心の中では、北村のファンたちにドヤってしまう。


 ——どうだよ見たか。これが俺ら冒険者の、そして嵐山健二の力だ。安全な街中で、人間相手に試合なんかしているお前らと違って、俺ら冒険者は野生のリアルでモンスター相手に命のやり取りをしているんだ。


 大人げないとわかってはいても、同じ元冒険者として、つい誇らしくなってしまった。


 ——やっぱ冒険者って凄いなぁ。強いよなぁ。


 春花には悪いけど、俺の気持ちは、ぐぐっと冒険者業界に傾いた。


 Aランク闘技者になって、春花の縁談を白紙にするという約束は、忘れていない。


 でも、その後でいいから、なんとかして冒険者業界に戻れないかなぁ、と思ってしまう。


「確かに凄いけど、ちょっとまずいな」


 大満足の俺の横で、春花が難しい顔をした。


「まずいなって、何がだよ?」

「同じ元冒険者でハルバードと爆発魔法の使い手じゃ、孝也と被っているっ!」


 悔しそうに、春花は歯を食いしばった。


「どこの心配しているんだよ……」

「大事なことだよ! だって、せっかく名前が売れてきたのに、これじゃ話題を持っていかれちゃうじゃないか。なんとかしないと」

「タカヤがアラシヤマを倒すとかですか?」

「それじゃ本末転倒だっての」


 嵐山と戦えるということは、つまりもう充分出世しているわけだ。出世するために嵐山を倒そうではわけがわからない。


 でも、春花はノリノリだった。


「いいねそれ。よし、目標は打倒嵐山。孝也、さっさとAランクになってボクの縁談を白紙にしてSランクに殴り込もうね」

「Sランクとか笑顔で簡単に言うことじゃないだろ……」

「でも、戦ってみたいでしょ?」

「え? それは……」


 憧れの嵐山神と戦う自分を想像して、俺は興奮した。


 マイヒーローに胸を借りるつもりで戦う試合。ある意味、マンツーマン特訓とも言える。


 あの嵐山健二と戦える。畏れ多いし勝てる気もしないけど、ある意味、ファンとしては超VIP体験じゃないか?


 あの英雄の力を、この身で体験してみたい。そんな思いに駆られた。


 けれど、俺が返事をしないでいると、春花はくちびるをとがらせた。


「む~、ねぇ孝也。さっきからSランクになることに消極的だけど、Aランクに上がってボクの縁談白紙にしたら、闘技者やめるつもりじゃないよね?」

「え? いや、そんな計画はないけど」

「どうかなぁ」


 春花は、ジト目で見つめた後、急に、肩を寄せてきた。


 そして、オトナっぽい、セクシーな声で囁いてきた。


「でも孝也、忘れていない? 闘技者やめちゃったら、大好きなボクと一緒にいられる口実、無くなっちゃうよ?」


 ボクのこと好きでしょ?

 ボクと一緒に居たいでしょ?

 と、春花は眼で訴えてくる。


 言われて、俺は少し考えた。


 ――そういえば、今、俺が春花の家で一緒に住んでいるのって、闘技者だからだよな。


 闘技者をやめれば、当然、春花とも、もちろん、ノエルとも距離を置くことになる。


 それはいやだなぁ、と思っていると、スマホからアラート音が鳴った。


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