第29話 憧れのマイヒーロー



 日差しが強くなり、夏の訪れを感じる六月上旬の夕方。


 時刻は五時を過ぎているのに、昼間と変わらない明るさの下、桜森ジムのグラウンドで訓練を終えた俺とノエルは、ベンチに戻った。


 すると、ちょうどジムへの出入り口から、春花が顔を出した。


「おう春花。大学は終わったのか?」

「うん、午後の講義は休みなの。それより二人とも、いいものを貰ったよ」


 言って、春花はスマホの画面を見せてきた。


 そこには、再来週の闘技の試合の、関係者席チケット三人分が表示されていた。


「なんだ? 試合観戦か?」

「そうだよ。三人で行こうよ」

「まぁ、他の人の試合ってちゃんと見たことないしな。俺も闘技者なんだし、これを機に真面目に闘技の勉強するか」


 冒険者業界が再興するまでの腰掛にしか思っていなかった前とは違い、今の俺は、闘技者業について少し前向きになっていた。


 俺の返事が嬉しかったのか、春花は笑顔を深くした。


「うんうん、孝也もようやく、闘技者としての自覚が芽生えてきたみたいだね」


 そこで、春花の目元が、ニヤリンと光った。


「でも孝也、このチケット、何か気づかない? ないない?」

「え? 気づかないって……」


 言われて、俺は目を凝らして、画面の端から端まで注目した。


 春花の挑戦に、ノエルもつぶらな瞳をキョロキョロさせた。かわいい。


「えーっと、再来週の6月●日のT都ドームの試合……あ、あぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 刹那、俺は雷に打たれたような衝撃を受けた。


「おい春花! これってまさか!?」

「どうしたのですか? この試合がなんなのですか?」


 状況がわかっていないノエルは、俺と春花の顔を交互に見比べた。


 春花は、痛快そうにタネ明かしをした。


「そう! 孝也の憧れる元Sランク冒険者! ドラゴンスレイヤー嵐山健二の、闘技業界電撃参戦試合のチケットだよ!」


 ――あ、嵐山健二を、生で見られるのか!?


 嵐山健二、それは幼い頃からの夢。

 嵐山健二、それは子供の頃からの憧れ。

 嵐山健二、それは少年の俺のマイヒーロー。


 冒険者のトレーディングカードで、彼のウルトラレアカードを手に入れるために、お百度参りをしてからカードを買った。


 冒険者を題材にした格闘ゲームでは、もちろん彼を持ちキャラにした。


 小学校時代の夏休みの自由研究では、彼の魅力をまとめた解説本をみんなの前で発表して、開始10分で先生に止められた。


 その、マイベストヒーローが俺と同じ業界に、しかも戦いを生で見られる。


 俺は興奮と緊張で息を呑んで、手に汗を握った。



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本作【冒険者ギルドを追放された俺が闘技場に転職したら中学時代の同級生を全員見返した】が2万PV達成です!

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