第27話 なにやっているんだろうな、俺



 辛いけど、いましばらくの辛抱だ。


 冒険者業界が再建する可能性は、十分ある。


 たとえば、大和鹿の例がある。


 かつて、大和鹿は絶滅の危機があるとして保護動物に指定された。


 ところが、人間が狩猟するのをやめると、凄まじい繁殖力で数を増やし、今では大和鹿が増えすぎて社会問題になっている。


 山間部では大和鹿による畑や人的被害が後を絶たず、住民からの度重なる苦情の末、政府は大和鹿の保護指定を解除。


 今では、猟師たちの狩猟対象だ。

 だから、モンスターだって同じだ。


 そもそも、モンスターは本来、生命力が強く繁殖力の強い生物だ。


 だからこそ、人類は有史以前からモンスターの脅威に苦しめられてきた。


 今でこそ絶滅危惧種扱いだけど、そうなるまでに、世界中の冒険者たちが総出で戦い、数千年もかかったのだ。


 保護なんてすれば、きっと何年も経たないうちに大繁殖するに違いない。


 数が減った今でも、モンスターによる被害者は後を絶たないんだ。大繁殖すれば、政府や国連も無視できないほどの被害が出る。


 その時、人々を守るのは俺ら冒険者だ。


「おっきいテレビです」


 ラウンジの横を通り過ぎようとすると、ノエルが、ソファの前に置かれている、100インチ超えのテレビに注目した。


 春花の家にあるテレビも大きいけど、それ以上だった。


『続いて、絶滅が叫ばれるモンスターについて、新しい調査結果が判明しました』


 おっ、噂をすればだな。

 保護を初めて三か月。

 そろそろモンスターの数が回復する頃かな?


『専門家の研究によりますと、絶滅危惧種に指定されたモンスターの数が安全値に戻るには、最低でも100年はかかるとのことです』


 ………………え。


『種類により差はありますが、年々、モンスターの免疫力、繁殖力が低下していることが判明しました。個体数が減ったことで遺伝子多様性が失われたことが原因との説が有力になっています。また、生息域の縮小に伴い、繁殖できる環境も整っていないため、今後、数が増える可能性は極めて低いと。政府は、現在モンスターの被害に遭っている自治体については、転居費用を給付することで対応する意向を示しています』

「…………なんだよ、それ」


 あまりに無慈悲な現実に、俺は絶望した。


 まるで、この世界そのものが俺の邪魔をしてくるような、そんな錯覚すら覚えた。



   ◆



 家に帰ると、俺は春花に貰った自分の部屋で、ベッドに倒れこんでいた。


 カーテン越しに赤い夕陽を浴びながら、白い天井を眺め続ける。


 不思議だ。


 撮影スタジオでは、あれだけ嫌な気持ちがわだかまっていたのに、今はそうした気持ちがまるでなかった。


 胸の中は空っぽで何もなく、だからこそ、逆に喪失感でいっぱいになるという、矛盾した想いを孕んでいた。


「なにやっているんだろうな、俺」


 闘技場で戦って、勝って、歓声を浴びて、いい気になって、PV撮影やインタビューに浮かれた。


 でも、俺がしたかったのってこういうことか? 違うだろ?


 幼い頃に憧れたのは、モンスターの脅威から人々を守る正義のヒーロー。人類を繁栄に導く偉大な英雄の姿だ。


 彼らはどれほど強大な敵にも、絶望的な状況にも臆せず立ち向かい、苦難の道を切り拓く救世主たちだった。


 その生きざまに憧れた。それも、強烈に。


 俺は有名人になって、チヤホヤされたいんじゃない。


 人々を救う勇者になりたかったんだ。


 なのに、こうしている間にもモンスターの脅威に晒されている人々を放っておいて俺がしていることはなんだ?


 闘技場の戦いは、あくまでも見世物だ。


 人々を楽しませるためにマッチングされた娯楽だ。


 春花の愛する闘技を馬鹿にするつもりは一切ない。


 何万という人々を熱狂させる素晴らしい演目だと思う。


 ただし、俺が求めた世界じゃない。


 ノエルとのタッグバトルで、パーティー戦を疑似体験したのは楽しかったけれど、疑似体験はあくまで疑似。


 本来俺が求めていたのは、冒険者としての正義の戦いだ。


 なのにみんなを楽しませるために戦って、まるでピエロだ。


 モンスターが絶滅危惧種になって、数が減ったおかげで被害に遭う人がいなくなったなら、少し寂しいけれど諦めもつく。


 誰もモンスターに襲われない平和な世界なら、それでいい。


 でも、モンスターの被害に遭っている人々がいるのに、モンスターは保護対象だから放置するのは、理不尽だと思う。


 深い失望感で、目を開けているのも億劫になると、ドアがノックされた。


 春花かな? 何の用だ?


 そう思って部屋のドアを開くと、エプロン姿のノエルが立っていた。


 エプロンにはところどころ、オレンジ色の染みがついていて、汚れている。


「どうしたんだ、その恰好?」

「タカヤ、ごはんなのです」

「ん、おう」


 意外な姿に毒気を抜かれつつ、俺はノエルに手を引かれた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 15000PV達成ありがとうございます!

 また、昨日一日のPV数が3706回でした。私のカクヨム記録を超えました。

 フォロワー数も327人で、こちらも私のカクヨム記録を超えました。

 前は【闇営業とは呼ばせない 冒険者ギルドに双黒傭兵】の306でした。


 それでは本日も支援してくれた皆様に感謝を。

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 皆さん、本当にありがとうございました。本気で嬉しいです。

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