第26話 俺は業界を見捨てていない……
「では続いて、高橋孝也選手に質問です」
「はい」
記者の前なので、余所行きの態度で臨んだ。
「孝也選手は、冒険者高校出身ですよね?」
「はい」
「闘技者になる以前は冒険者ギルドに所属していたと聞いていますが?」
いきなり嫌な質問だな。
「ええ、そうです」
表情を崩さないようにしながら、頷いた。
「どうして冒険者を目指されたんですか?」
「そりゃあやっぱり男の子ですからね。昔から憧れていたんですよ。強くてカッコイイ正義の味方って奴に」
本当は、これを機にモンスター、害魔獣の危険性を訴え、イメージダウンした冒険者業界の名誉を少しでも回復したかった。
けど、世論はモンスター保護の流れに傾いている。
下手なことを言って炎上して、春花に迷惑をかけるわけにはいかない。
俺は、ぐっと堪えた。
「それに昔からSランク冒険者、嵐山健二のファンでして。彼の自伝は俺のバイブルですよ」
もっとも、その嵐山も、冒険者を引退してしまった。
オレの仕事は終わった。
そう言い残して、彼が業界を去った時は悲しかったけれど、引き際のダンディズムには俺を含め多くのファンが称賛の声を送った。
「なるほど。それで、冒険者業界を見限ったのは、やはり業界の凋落が原因ですか?」
え?
記者の問いかけに、俺は一瞬、素になった。
見限った? て、デビュー戦で戦った石橋や片山みたいに?
そんな風に見られていたのか?
緊張と恐怖で顔がヒリついて、手の平が熱くなった。
「いや、業界が凋落したから逃げるとか、そんなんじゃないですよ」
「じゃあ、モンスター保護に目覚めたから?」
無遠慮に尋ねてくる記者の質問に、心を乱される。
でも、俺は努めて冷静に、低姿勢になって答えた。
「いえ、そもそも俺は冒険者業界を見限ったわけじゃないんですよ。なんていうか、業界のニーズに俺が合わなくてやめざるを得なかったと言いましょうか。このご時世、冒険者業界だと爆発魔法は使い勝手が悪いんですよ」
そこから、なんとか話の軌道修正をしようと試みる。
「だけど闘技業界だったら活躍できると、桜森さんにスカウトされたんです。彼女の目利きには驚かされますよ。ドラゴニュートのノエルをスカウトしたのも、彼女の発案ですし」
冒険者業界から、話題を春花へ逸らした。
「それは凄いですね。では桜森さん、お二人について、今後の展望などは?」
うまく誤魔化せたことに安堵する。
けれど、春花と取材陣が質疑応答を続ける中、俺の心中は穏やかではなかった。
俺は、冒険者業界を捨ててなんかいない。
だが、周囲からはそう見えてしまうのか……。
人生初のインタビューを、俺は暗澹たる想いで過ごした。
◆
「では、本日は時間を作っていただき、ありがとうございました」
記者の人たちにお礼を言われて、俺らは部屋をあとにした。
もう用事は無く、あとは帰るだけだ。
玄関へ向けて、廊下を歩く途中、俺は悩んでいた。
俺は、冒険者業界が再建するまでの繋ぎとして、闘技業界に身を置いている。
でも、周りはそうは見ない。
本当は冒険者に戻りたいと、声高に叫びたいも、それはできない。
世論がモンスター保護に傾いている今、そんなことを言えば、春花にも迷惑がかかる。
辛いけど、いましばらくの辛抱だ。
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