第23話 夢のPVデビュー
光良との試合から十日後。
五月も終盤のある休日に、俺と春花、それにノエルの三人は、撮影スタジオに来ていた。
光良からPV出演権を勝ち取ったので、その撮影だ。
ただ、最初は緊張したものの、それは俺の取り越し苦労だった。
「はい、ノエルちゃん、目線こっちに。いいね、あ、ドラゴンクローもっと開いて。そうそう。うん、そこから一気に羽ばたいて。はいカット。よかったよノエルちゃん」
監督が指示を出して、半竜化したノエルがその通りに動くと、撮影は終了した。
PVと言っても、俺らのPVじゃない。闘技場のPVだ。
人気闘技者が次々出てきて、一人ワンシーンずつのカットを繋げたり合成したりして、一本のPVを作り上げる。
格闘ゲームのオープニングや、動画サイトのアニメ複合MADを想像してくれればわかりやすい。
選手一人当たりの出演時間は、数秒だ。
「あ、孝也選手、ノエルちゃんの後ろに立ってください」
「はい」
監督の指示に従って、俺はようやく届いたドラゴンハルバードを構えて、ノエルの後ろに立った。
「いいよいいよ。桜森さん。ここ、背景にドラゴンの画像を入れたいのですが構いませんか? ドラゴンの力で戦う闘技者って感じで」
「はい、それでお願いします」
「あ、孝也選手、髪形がちょっと乱れているので待ってください。おい」
監督の指示で、スタイリストの女性が走ってくる。
クシと手で、俺の前髪を直すと、女性は距離を取った。
「孝也選手、もっと闘争心を込めてこっちを睨みつけて。敵と戦う感じで」
言われて、俺は憧れのSランク冒険者、嵐山健二になったつもりで、キメ顔を作った。
「カッコいいよ。勇ましい感じが出てる。そのままそのままぁ」
——まさか、こんなに早くカメラの前に立つとはな。
表情は作るも、緊張と高揚感で、心臓はバクバクだった。
ついこの前まで、冒険者はあこがれの職業で、国民的スターだった。
話題の冒険者は、カメラの前に立たされることも珍しくない。
でもそれは、Bランク以上の上級冒険者が中心で、冒険者がみんな、被写体になるわけじゃない。
なのに、闘技者になって一か月も経たないうちにこんな。まるで、一流冒険者の仲間入りを果たしたようで、興奮する。
「はいOK。これで君らの撮影は終了だよ。おい、次の選手、呼んでこい」
ADさんが、こちらに駆けてきて、俺とノエルに頭を下げた。
「おつかれさまです。お昼休憩を挟んで、次は雑誌のインタビューになります。一時間後に、また戻ってきてください」
そう言って、ADさんは500ミリリットルのミネラルウォーターを手渡してくれた。
特別扱いに、なんだか大人になった気分だった。
「じゃあ二人とも、外に食べに行こうか」
「いくのです」
春花の呼びかけに、ノエルは無表情のまま、軽い足取りでついていく。
桜色のツーサイドアップが揺れて、とても可愛い。
和みつつ、俺も二人の背を追った。
◆
「それにしても、孝也も選手業が板についてきたんじゃない?」
撮影スタジオから出ると、春花は肘で、俺のわき腹を小突いて来た。
「そうでもねぇよ。ていうか冒険者業界が再建したらやめるし。すぐ冒険者業界戻るし」
「またまたそんなこと言って選手業も結構気に入っているくせにぃ。さっきもカメラの前で気分よかったでしょ?」
図星を突かれて、俺は言い訳を考えた。
確かに一流の冒険者気分に浸れて気分は良かったけれど、それを認めると、何かに負ける気がした。
「んなわけないだろ。俺の夢はSランク冒険者だ。闘技者としての名声で撮影だのインタビューだの受けても嬉しくねぇよ」
少し語気を強めてぶっきらぼうに言った。
――ちょっと、わざとらしかったかな?
すると、ノエルが俺の手をつかんできた。
「タカヤ……闘技者イヤですか? やめてしまうのですか?」
声には元気がなく、いつもは無表情な眉が、しょんぼりと八の字に垂れていた。
俺の胸に、罪悪感がグサリと刺さった。
春花が、ノエルの頭を優しくなでた。
「大丈夫だよノエル。孝也は闘技者をやめたりなんてしないよ。ね」
くるりと俺に振り返って、笑顔で圧力をかけてくる春花。
純真無垢の権化であるノエルを人質にした断れないプレッシャーに負けて、俺は取り繕う。
「ま、まぁあれだ。雇い主は美人で可愛い妹分もいて労働環境はいいし、しばらくは闘技者を続けるのも悪くはないよな」
「んッ」
春花の顔が、ぽーっと赤く染まった。
「えへ、えへへ。まったく、孝也は美人に弱くてボク困るなぁ、ボクら偽装カップルなのに。ねぇノエル」
頬に手を当てて、はにかむ春花。
その姿がべらぼうに可愛くて、俺は一瞬、変な気分になってしまう。
「さっ、【偽装デート】も兼ねて、おしゃれなレストランにでも行こっか」
ウキウキ笑顔で言う言葉じゃないだろ。
と心の中でツッコんだ。
——やっぱり、春花って、俺のこと好きなのかな?
最初は、結婚を避けるために、俺をダシに使っているだけ、とも思った。
でも、ならもっと、積極的にアプローチしてくると思う。
わざわざ、【偽装】を強調する必要はない。
むしろ、本当は好きだけど、照れ隠しで言っているようにすら思う。
けれど、『お前俺のこと好きなの?』なんて聞いて、違ったらとんだピエロだ。
俺は黒歴史を引きずりながら、残りの人生を過ごすハメになるだろう。
枕に突っ伏して膝から下をバタバタしながら、うあああ、とか叫びたくない。
そうやって俺が悶々としていると、見知った集団に声をかけられた。
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皆さんのおかげで本日、5000PVを突破することができました。
そして先日、現代ファンタジーの週刊ランキングで12位になったと書きましたが、本日週間ランキング11位になりました。
読んでくれた皆さん、ありがとうございます。
また、この場を借りて、支援してくれた方々へ感謝を。
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皆さん、ありがとうございました。
とても嬉しいです。
この調子で、本作の需要を伸ばし、発展させることができればと思います。
では次回、24話でお会いしましょう。
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