第20話 元Fランク冒険者 VS 最速のCランク闘技者


「デトネイション!」


 紅蓮の猛火と衝撃波が、俺を爆心地に噴火した。


 たまらず、兎山たちは吹き飛んだ。


 俺は、目をつぶって爆発の熱と衝撃に耐えながら、兎山の様子を窺った。


 爆煙が晴れると、兎山たちは、さっきよりも距離を取って、俺を包囲していた。


 七人とも、スーツが少し焦げて、同じように傷ついている。


 ダメージが少なすぎる。咄嗟にバックステップで回避したか……。


「少年、今のは爆轟魔法か?」

「ご名答。爆発魔法には種類がある。範囲が広くて焼却力の高い爆炎魔法【イクスプロージョン】。範囲は狭いけど粉砕力は高い爆砕魔法【ブラスト】。そして、効果範囲が広くて高い焼却力と粉砕力を持つ爆轟魔法【デトネイション】。こいつなら、耐熱性の高いスーツだろうと、何人いようと、全員まとめて粉砕できる」


「まさか、それほどの高等魔法をその年齢で使うとは、恐れ入った。だが、爆轟魔法は制御が難しい。事実、自身にもダメージがあるようだが?」


 兎山の指摘通り、自身を爆心地にしたこの攻撃方法で爆轟魔法を使うと、俺自身も多少のダメージを負ってしまう。


 けど、それで構わない。


「生憎と、うちの事務所はこの試合に全てを賭けているんでね。まる焼けダルマ覚悟だよ!」


 それで光良の毒牙から春花を守れるなら、安いものだ。


 俺は、毅然とした態度を崩さず、兎山と対峙した。


 すると、兎山はバラクラバ越しに溜息をついた。


「残念だよ。君のような若者の芽を摘むのはね」


 兎山が力むと、全身に魔法の光が駆け巡った。


 ――今のはなんだ?


 俺が訝しむと、兎山は前傾の突撃体勢に入った。


「亀田から教わった、魔法遮断の魔法だ」


 その意味を察して、戦慄が背筋に走った。


「一流の闘技者は研鑽を忘れない。スピードだけの選手にはなりたくなくてね。さて、攻撃のたびに必ず消耗する君と、攻撃を避け、仮に当たっても被害は最小限で済む私。先に力尽きるのはどちらかな」


 兎山が駆けた。

 一秒もしないで、さっきの二の舞だろう。


 プランBも失敗。

 こうなったら、なんとかして本物の兎山を見つける必要がある。


 でも、兎山の分身には、影も足音もあって、本物との見分けはつかない。


 攻撃がすり抜けて、初めて偽物とわかるんだ。


 その瞬間、俺は、冒険者高校の授業を思い出した。



「いいか。敵の長所を利用するんだ。長所は短所の裏返し。一見すると無敵に見える長所が弱点になりうる。たとえば、象の長くて強靭な鼻は長所だが、何故、象の鼻は長くなったか。それは巨体を支えるために四本の足が必要で、前足を使う余裕が無いからだ。つまり、象は足を一本でも破壊されると動けなくなる」



 実体がなく、触らないと本物かわからない分身。裏を返せば、分身は、物理的な影響を受けることができない……なら!


 俺は、自分を爆心地に、デトネイションではなく、ブラストを連続で使用した。


 デトネイションとでも思ったのか、兎山はバックステップで距離を取った。


 そして、訝しむ。


「ブラストの連続使用? ヤケになったか? いや、それともまさか、地面の破片を飛ばして、すり抜けなかったのが本物とでも?」


 土埃の舞う中、兎山は荒れた地面を見下ろした。


「さあて、それはどうかな?」

「愚かだな。君は背中に目でもついているのか? 周囲を取り囲む者の中に、破片がすり抜けないものがいるか、どうやって確認する? 体を汚すのもナンセンスだ。分身の姿は自由に更新できる。本体と同じ汚れ、傷の再現はいつでもできる」


 ベテラン故の余裕か、兎山は講釈を垂れるが、俺は自信一杯に口角を上げながら、辺りを見回した。


 七人の兎山は、目出し帽子越しに、冷静な視線で俺を見据えている。


 けれど、不意に、その内の一人だけが、不自然に眼をしかめた。


 ——なるほどな。


 VIP席で、光良が邪悪な笑みを浮かべた。


 七人の兎山が、一斉に跳びかかってくる。


 俺は、その内の一人へ振り返った。


「お前が! 本物だぁあああああああああああああああああ!」

回転運動を余すことなくハルバードに乗せて、【本物】の兎山に叩き込んだ。

「ガハッ!?」


 鋼の斧刃が、アサルトスーツ越しに、兎山のアバラを断ち折った。


 光良は、目と口を限界まで開けながら固まった。


 華奢な兎山は、血を吐きながら地面に体を叩きつけ、白目を剥きかけた。


「な……ぜ……」

「土埃に目をしかめるのは、本物だけだろ?」


 飛び散る地面の破片と違い、もうもうとたちこめる土埃なら、反応する奴が誰か、見極める時間はたっぷりとある。


 目出し帽がマスクの代わりになって、せき込むのは防げても、目は丸出しだ。


 兎山が気絶したのを確認してから、ノエルへと向き直った。


「シールドバッシュ!」

「ボルカンパンチ」


 亀田が大盾を全面に構えて突貫。その勢いを、ノエルは相殺しようと試みるも、ギリギリのところで踏ん張れず、弾かれてしまう。


 翼のジェットを使い、ノエルは綺麗に着地した。


 けれど、そこにまた、亀田のシールドバッシュが炸裂した。


 着地したばかりのノエルでは、受け止められない。


「ノエル!」


 脊髄反射で飛び出しながら、俺は亀田の大盾目掛けて、ハルバードを突き出した。


 穂先と大盾の腹が激突する。


 手の平と肩に痛みが走るも、肉体強化魔法と力づくで抗った。


 刹那、不吉な音がした。


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 皆さんのおかげでなんと、現代ファンタジー日刊ランキングで2位になりました。

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(私のミスで、本日、編集中の19話が予定より早くに公開されてしまいました。本編に影響はありませんが、最後の皆さんへの感謝の部分にミスがありました。不快になった方がいましたら申し訳ありません。また、その都合で、上記の名前が一部19話の方と重なっている部分がありますので、何卒ご理解ください)


(お詫びに、明日、投稿予定だった21話を、本日投稿させてもらいます)

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